同窓会

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ALMO 2013.1

林 玲子

国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部 部長

公共政策プログラム(2007年博士課程修了)

 

 

 

 

 

 

保健と建築、異なる二つの専門知識を統合、世界が注目する日本の人口問題に挑む

-あなたの専門分野とその分野に従事するに至った経緯を教えてください。

セネガルの国立医療機器整備トレーニングセンターにて

私は、保健学、特に人口学を勉強するために1984年に東京大学に入学しました。そして、修士号を東京大学とパリ第一大学において取得したあと、1990年に建築学を学ぶ道に進みました。多くの人がこの転換に驚かれますが、どちらの分野も病院や医療構造、都市環境の問題を考えるにあたって高い関連性を持っています。

 

建築構造設計者としてキャリアをスタート、その後会社を立ち上げる

1992年に、私は建築構造設計者として働き始めました。この時にはいくつかの興味深いプロジェクトに関わることができ、キャリアにおいて経験を積む上で良いスタートを切ることができたと思っています。そして1996年には、当初の計画通り、自分の会社を立ち上げることを決意しました。この会社は医療、人口問題、建築、都市計画のコンサルティングを請け負うもので、私は海外での病院建設など、政府開発援助(ODA)出資のプロジェクトに徐々に関わっていくようになりました。プロジェクトはホンジュラスやインドネシアなどに加え、アフリカ諸国により多く関与するようになっていきました。これは日本のODAがアフリカにより重点を置くようになったことによるものですが、私がフランス語を話すということも理由のひとつです(アフリカ諸国の半分がフランス語圏であるため)。

そしてあるとき、東京大学で建築学を学んだ時にお世話になり、当時GRIPSで教えられていた西野文雄教授を訪ねた時に、GRIPSが博士課程を始めようとしていることを聞き、強い興味を持ちました。私は以前から、保健学と建築学を別の分野として学ぶのではなく、人間開発や社会の発展および進化などと言った、より広い視野から研究を行うことに関心がありました。こうした理由から、私は2002年にGRIPSの博士課程を開始しました。藤正巌教授の指導のもと、私は過去2000年の間の世界歴史都市人口の動向についての研究を行いました。博士課程在学中も仕事は続け、2007年に博士号を取得しました。

 

セネガル政府との関わり―JICA専門家、保険予防大臣のテクニカルアドバイザーとして

GRIPSに在学中の2003年から、保健人材開発促進プロジェクトでJICA専門家として働くために、1年間セネガルに滞在しました。セネガルから帰国すると、GRIPSのキャンパスは若松町から六本木に移転しており、素晴らしい図書館と、国内大学が所有する文献にもれなくアクセスできる素晴らしい研究環境のおかげで、帰国後はGRIPSで最高の学生生活を送ることができました。2007年に博士号を取得したのち、私は東京大学の研究教育拠点「都市空間の持続再生学の創出」において半年ほどCOE研究員として勤務し、その後は再び、2011年までの3年間セネガルで勤務しました。私はセネガルの保健予防大臣のテクニカルアドバイザーに任命され、医療センター建設、都市衛生、病院管理、母性衛生改善など様々なプロジェクトに携わりました。日本政府とセネガル政府の間に立ってこれらのプロジェクトの調整を行うことが私の主な任務でした。日本に帰国後には、再び東京大学の研究教育拠点「都市空間の持続再生学の創出」において今度はプロジェクト准教授として数か月間勤務し、2012年4月から、現職である国立社会保障・人口問題研究所の国際関係部部長を務めています。

 

セネガルのダカール市にて

-現在、国立社会保障・人口問題研究所の国際関係部部長として勤務されています。主な任務や職務はどのようなものでしょうか。

この研究所は日本の厚生労働省に所属する機関で、1996年に国立人口問題研究所と国立社会保障研究所が統合されたことによって設立されました。2014年は旧人口問題研究所の設立75周年、2015年は旧社会保障研究所の50周年と、この2つの研究所はどちらも長い歴史を持っています。また、2016年には、統合後の国立社会保障・人口問題研究所が創立26周年を迎えます。

政策立案者をサポートするための研究を行っています。

研究所は50人ほどの研究員と、そのサポート役の12人の事務員によって構成されています。私たちは、国家レベルと都道府県や市町村などの地方レベルの両方の人口予測を行っています。研究所は7部門で構成され、私は国際関係部の部長を務めています。また、国の出生動向、人口移動、社会保障、人々の生活や家族、世帯の変化と言ったトピックを扱う5つの基本実地調査を定期的に行っています。私たちは、政策立案者をサポートするために予測と調査に基づいて研究を行い、その結果は様々な組織や団体によって広く引証されています。また、所属する研究員の多くはそれぞれの専門分野における理事会のメンバーを務めています。現在私たちが重点的に取り組んでいるトピックスの1つは移住に関するもので、これは都市化の問題にも関連があります。その他にも、世界的な人口高齢化や人口統計機関の近代化および革新などのテーマに取り組んでいます。

 

-これまでの業務で一番苦労したことはなんでしょうか?またこれまでのキャリアで一番やりがいを感じたことはどんなことでしょうか。

日本では、人口減少がすでに始まっており、それと同時に急激に増加する高齢者の数が社会保障制度の持続性を脅かしています。近い将来、グローバル社会も同様の問題に直面することが予想されており、この点において日本は世界の先駆者であると言えます。日本がこの問題をどう扱うかということは先例として国際的に役立つ可能性があり、したがって今後世界中が日本の動向に注目することになると思います。現在の人口動向は、私たちが過去200年から300年の間に経験してきた傾向とは異なるため、私たちはより長期的な視野を持って、本質的な要素を理解しなければなりません。インターネットの普及とコミュニケーションの簡易化によって、現在、果てしないほどの情報が溢れかえり、研究されなければならない問題も数多く存在する一方で、私たちの時間は限られています。これはすべての誠実で勤勉な研究者が抱える悩ましい課題なのでしょう。

 

変化をもたらすには時間と人員が必要ですが、問題を適切に捉え、真摯にとりくめば最後には解決すると信じています。

この10年の間、私はその半分近くの時間を、おもにODAプロジェクトに携わりながらアフリカで過ごしました。ODAについては多くの批判がありますし、私自身もたくさんの「問題」を引き合いに出すこともできます。しかしその一方で、国際社会と協力する意志のある被援助国は、国の発展という点において確実により良い成果を達成しており、私もそれを自分の目で見てきました。そして、そのようなプロセスに関われることに大きなやりがいを感じています。同様に、現在世界の人口爆発は緩和傾向にあり、私は、このような改善は問題を認識した時点から国際社会が努力してきた結果であると思っています。オバマ氏が大統領に選出された時に私はセネガルにいたのですが、“Yes we can”というフレーズはセネガルにおいても人気が高く、そしてその言葉は日本に帰国したあとの私のもとに、こだまのようにして響き返ってきました。変化をもたらすのには時間がかかりますし、その協力を得るためには多くの人々を動員しなければなりません。しかし、どんな問題であっても、それを適切に捉え、真摯に取り組めば、最後には解決することができると考えています。

 

GRIPSの同窓会ネットワークは日本の未来にとって大きな可能性を秘めています。

ニューヨークの国連本部にて

-日本は現在、急速な高齢化という問題に直面しています。今後10年間において、日本は移民への門戸を今よりも広げるようになると思いますか?

日本はすでに外国人の受入れ拡大に取り組んでおり、移民の数と帰化の件数は増加してきていますが、それでも西ヨーロッパや北アメリカ諸国に比べるとその数字は小さいと言えます。その理由のひとつは、非熟練の外国人労働者を受け入れないという政策にあり、これは日本社会の大部分が支持しています。日本ではおもに日本語しか話されていないという側面も移民増加に歯止めをかけています。これまでの研究から、移民は文化的に関連のある国に移住する傾向があることがわかっています。したがって、移民増加の鍵を握るのは、日本語と日本文化の普及、そして親日家とのつながりの強化です。こういった意味でも、GRIPSの同窓会ネットワークは日本の未来にとっての大きな可能性を秘めているのではないでしょうか。

 

-同時に、海外留学を希望する日本の学生は少なくなってきているようです。このことについてはどう感じておられますか?

そういった傾向については耳にしますが、私自身は海外留学や海外で働くことに非常に意欲的な日本の若者を多く見てきています。メディアで報じられている内容とは対照的に、統計によればアメリカ人もしくはヨーロッパ人の場合、人口の3%のみが国外で生活しており、この数字は日本とほぼ同じです。また、最近のデータによれば、日本の若い世代は前の世代よりも多くの海外滞在経験があることがわかっています。どの国においても、格差の拡大とともに社会の二極化が進んでいる可能性はありますが、私は日本の若者については楽観的に考えています。

 

-仕事とプライベートのバランスはどのように維持していますか?

音楽を聞いたりテレビを見たり、街をぶらぶらしたり友達や家族に会ったりと、ごく普通のことをするのが好きです。異なる国々の間を移動して生活することで私の私生活はシンプルなものとなり、それには良い面も悪い面もあるのですが、結局のところ、ワークライフバランスは良く保たれているのではないかと思います。

また、言語を学ぶこと、色々な国に訪れることも好きです。私は、英語と日本語はもちろん、セネガルで使用されている言葉のひとつであるウォロフ語、フランス語、アラビア語、ロシア語、中国語、ペルシア語に精通しています。今はインターネット上にリソースが豊富にありますし、誰かと練習がしたければそれも可能なので、言葉を学ぶのは以前よりも簡単になりました。コミュニケーションから得られる喜びは私の頭脳を活性化させ、これはアンチエイジングのための良い方法ではないかと思っています。私は今まで80カ国260都市を訪れましたが、発見できることはまだまだあると思っています。

 

-GRIPSでの一番の思い出は何でしょうか?

私がGRIPSで学んでいた頃のキャンパスにはそれほど人も多くなく、私は藤正教授の広い研究室で様々な機械に囲まれながら、時々孤独感を覚えつつもただ座って、じっくりと考えをめぐらせていました。意外かもしれませんが、これが私にとっての良い思い出です。また、世界の国々から集まったクラスメートたちと集まって話をしたり、パーティーをしたりしたことも楽しい思い出です。六本木の中央にこんなにも国際的なコミュニティーがあるなんて!

〒106-8677 東京都港区六本木7-22-1

TEL : 03-6439-6000     FAX : 03-6439-6010

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