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2016.5.23

第124回GRIPSフォーラムにて原田尚美氏による講演「もう1つの二酸化炭素問題:海洋酸性化とその海洋生物への影響」が行われました。

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(取材・文責:企画室広報担当)

二酸化炭素問題と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、温室効果による地球温暖化であろう。しかし、二酸化炭素問題のもう一つの重要な側面に「海洋酸性化」がある。実際、世界中には海洋環境をモニタリングする観測点が海洋上にいくつも存在し、世界中の科学者・海洋政策担当者・産業関係者の共通の議題として、海洋酸性化に関する議論を進めている。

 

5月23日(月)に本学で行われた第124回GRIPSフォーラムでは、「もう一つの二酸化炭素問題:海洋酸性化とその海洋生物への影響」と題し講演が行われた。スピーカーである海洋研究開発機構 (JAMSTEC)地球環境観測研究開発センター 研究開発センター長代理 原田尚美氏(博士(理学))はJAMSTECが保持する西部北太平洋亜寒帯域や北極海の観測点でこの問題について探求している研究者の一人だ。

 

原田氏は講義の始めに、海洋の酸性化のメカニズムを科学的側面から解説し、次に実際に海洋酸性化によって海洋生物にどのような影響が及ぶのか、地球の歴史を遡って分析した。また最後に、自身のグループが研究センターで取り組んでいる、海洋酸性化による影響の定量的分析について紹介した。

 

二酸化炭素と海洋酸性化のメカニズム

原田氏は二酸化炭素の経年変化をアニメーションで示し、現在の大気中の二酸化炭素濃度(400ppm)が、地球が過去300万年間経験していないレベルであることを強調した。この二酸化炭素が海洋に溶解して水と反応すると、水素イオン濃度が増加し、通常アルカリ性を維持している海洋のpHを低下させる。これが海洋の酸性化反応であり、進行することで海洋では元の状態に戻そうとする緩衝作用が進み、その過程で海洋中のある生物に影響が及ぶのだという。特にプランクトン、サンゴ、ウニ…――炭酸カルシウムを生産する生物たちである。

 

地球の歴史に学ぶ―二酸化炭素超高濃度時代_DS30504

この海洋酸性化と生物の応答について知るためのケーススタディーとして、原田氏は、現在の二酸化炭素量に匹敵する量を経験していた時代を取上げた。“PETM: Paleocene-Eocene Thermal Maximum”―約5500万年前、1000年という長い期間にわたる、メタンの放出による二酸化炭素超高濃度時代である。海底堆積物の記録を分析した結果によると、炭酸カルシウムの生産を行う生物に、その生息海域ごとに種の絶滅を含めたネガティブなダメージが発生し、更に炭酸カルシウムの殻を持たない生物についても、基礎生産量が減少したことが分かるという。原田氏は、海洋がその回復に10万年もの膨大な時間を要したことを強調。また、現在の二酸化炭素の増加速度が地球史上最も早いスピードで進行していることや、プランクトンの進化による群集変化など、PETM時代と異なる現在の状況を踏まえ、多様な種について、酸性化の応答を綿密にモニタリングする必要があるとした。

 

定量的分析;炭酸カルシウム生産生物へのインパクト

現在、原田氏のグループの研究では、プランクトンの炭酸塩殻の骨格密度の変化をX線コンピュータともグラフィー法を用いて定量することで、海洋酸性化による海洋生物へのインパクトを定量的に分析する活動を行っている。炭酸カルシウム生産者ともいえる生物たちが、この先も持続的に生産活動を行えるのか否かの分析が、海洋酸性化による人間社会への影響を予測する鍵となる。

 

_DS30560原田氏が最も強調したのは、社会的な認知度の低さに反して、海洋酸性化が非常に個人の暮らしにも身近な問題である点だ。原田氏は講演の最後に、日本人の多くが好むお寿司を例に挙げ、地球温暖化、乱獲、そして海洋酸性化のうち最も多くの寿司ネタ(特に貝類)の漁獲量を減少させうる原因が海洋酸性化であることを示し、参加者の興味を誘った。消費者だけでなく、漁業や観光産業とその従事者など、海洋の恩恵を失った社会に及ぼされるインパクトは計り知れない。

 

海洋酸性化―物理的な境界線が無い海を根源とした問題であるため、国を超えた協調が不可欠である事は明確だ。フォーラムの進行役を務めた本学副学長 角南篤教授は、先日行われたG7科学技術担当大臣会合においても各国政府が海洋の観測に協力していくことで合意したことに言及し、昨今政策面からも更なる対応が必要とされる国際課題の一つだと強調した。

 

 

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2016.5.23

第124回GRIPSフォーラムにて原田尚美氏による講演「もう1つの二酸化炭素問題:海洋酸性化とその海洋生物への影響」が行われました。

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(取材・文責:企画室広報担当)

二酸化炭素問題と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、温室効果による地球温暖化であろう。しかし、二酸化炭素問題のもう一つの重要な側面に「海洋酸性化」がある。実際、世界中には海洋環境をモニタリングする観測点が海洋上にいくつも存在し、世界中の科学者・海洋政策担当者・産業関係者の共通の議題として、海洋酸性化に関する議論を進めている。

 

5月23日(月)に本学で行われた第124回GRIPSフォーラムでは、「もう一つの二酸化炭素問題:海洋酸性化とその海洋生物への影響」と題し講演が行われた。スピーカーである海洋研究開発機構 (JAMSTEC)地球環境観測研究開発センター 研究開発センター長代理 原田尚美氏(博士(理学))はJAMSTECが保持する西部北太平洋亜寒帯域や北極海の観測点でこの問題について探求している研究者の一人だ。

 

原田氏は講義の始めに、海洋の酸性化のメカニズムを科学的側面から解説し、次に実際に海洋酸性化によって海洋生物にどのような影響が及ぶのか、地球の歴史を遡って分析した。また最後に、自身のグループが研究センターで取り組んでいる、海洋酸性化による影響の定量的分析について紹介した。

 

二酸化炭素と海洋酸性化のメカニズム

原田氏は二酸化炭素の経年変化をアニメーションで示し、現在の大気中の二酸化炭素濃度(400ppm)が、地球が過去300万年間経験していないレベルであることを強調した。この二酸化炭素が海洋に溶解して水と反応すると、水素イオン濃度が増加し、通常アルカリ性を維持している海洋のpHを低下させる。これが海洋の酸性化反応であり、進行することで海洋では元の状態に戻そうとする緩衝作用が進み、その過程で海洋中のある生物に影響が及ぶのだという。特にプランクトン、サンゴ、ウニ…――炭酸カルシウムを生産する生物たちである。

 

地球の歴史に学ぶ―二酸化炭素超高濃度時代_DS30504

この海洋酸性化と生物の応答について知るためのケーススタディーとして、原田氏は、現在の二酸化炭素量に匹敵する量を経験していた時代を取上げた。“PETM: Paleocene-Eocene Thermal Maximum”―約5500万年前、1000年という長い期間にわたる、メタンの放出による二酸化炭素超高濃度時代である。海底堆積物の記録を分析した結果によると、炭酸カルシウムの生産を行う生物に、その生息海域ごとに種の絶滅を含めたネガティブなダメージが発生し、更に炭酸カルシウムの殻を持たない生物についても、基礎生産量が減少したことが分かるという。原田氏は、海洋がその回復に10万年もの膨大な時間を要したことを強調。また、現在の二酸化炭素の増加速度が地球史上最も早いスピードで進行していることや、プランクトンの進化による群集変化など、PETM時代と異なる現在の状況を踏まえ、多様な種について、酸性化の応答を綿密にモニタリングする必要があるとした。

 

定量的分析;炭酸カルシウム生産生物へのインパクト

現在、原田氏のグループの研究では、プランクトンの炭酸塩殻の骨格密度の変化をX線コンピュータともグラフィー法を用いて定量することで、海洋酸性化による海洋生物へのインパクトを定量的に分析する活動を行っている。炭酸カルシウム生産者ともいえる生物たちが、この先も持続的に生産活動を行えるのか否かの分析が、海洋酸性化による人間社会への影響を予測する鍵となる。

 

_DS30560原田氏が最も強調したのは、社会的な認知度の低さに反して、海洋酸性化が非常に個人の暮らしにも身近な問題である点だ。原田氏は講演の最後に、日本人の多くが好むお寿司を例に挙げ、地球温暖化、乱獲、そして海洋酸性化のうち最も多くの寿司ネタ(特に貝類)の漁獲量を減少させうる原因が海洋酸性化であることを示し、参加者の興味を誘った。消費者だけでなく、漁業や観光産業とその従事者など、海洋の恩恵を失った社会に及ぼされるインパクトは計り知れない。

 

海洋酸性化―物理的な境界線が無い海を根源とした問題であるため、国を超えた協調が不可欠である事は明確だ。フォーラムの進行役を務めた本学副学長 角南篤教授は、先日行われたG7科学技術担当大臣会合においても各国政府が海洋の観測に協力していくことで合意したことに言及し、昨今政策面からも更なる対応が必要とされる国際課題の一つだと強調した。

 

 

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