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The Roles of Human Capital and Social Capital in the Transformation of Village-Based Industrial Clusters: Evidence from Northern Vietnam (人的資本と社会観系資本が農村工業産地の変容に果たす役割:北ベトナムでの実証研究)

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: Vu Hoang Nam
学位名: 博士(開発経済学)
授与年月日: 2008年10月22日
論文名: The Roles of Human Capital and Social Capital in the Transformation of Village-Based Industrial Clusters: Evidence from Northern Vietnam (人的資本と社会観系資本が農村工業産地の変容に果たす役割:北ベトナムでの実証研究)
主査: 園部哲史教授
論文審査委員: 大塚啓二郎教授
大野健一教授
大山達雄教授
山野峰准教授
戸堂康之准教授(東京大学大学院新領域創成科学研究科)

I. 論文要旨
本研究は、北ベトナムの農村工業産地を事例として、農村工業がどのようなプロセスで発展するかを分析する。それによって、途上国における産業発展に有効な政策の策定に貢献しようという意図を持っている。そのため本研究は、途上国にとってありふれた産業であるアパレルと建設資材の製造に特化した二つの農村を事例として取り上げる。アパレル産地の付近にはかつて国有のタオル工場があり、国有工場の下請けをする零細生産者の協同組合が村にできたことが、その後のアパレル生産のきっかけとなった。建設資材産地の方は、もともと農機具を生産する鍛冶屋の多い村として知られていたのが、1980年代後半から建設資材の生産に切り替わっていった。ベトナムの農村工業産地の多くが、このように手工芸品やその他の伝統的な製品から近代的な製品や部品の製造に転換したか、転換の途上にある。そうした産地をいっそう発展させることが重要な政策課題となっている。
  本研究では産地の発展のプロセスやメカニズムを探るために、著者が自ら産地内の企業を訪問し、経営者から生産や費用、設備投資、営業活動、雇用、そして経営者自身の経歴について詳細な情報を聞き出して、計量経済学的な分析に耐えうる精度の高いデータを構築した。サンプル企業数はアパレル産地では138社、建設資材産地では204社にのぼる。いずれの産地でも生産は急速に増大している。これらの企業調査から明らかになったことの第一は、生産増は新規企業の参入による部分もあるが、より重要な原因は既存企業の成長に求められるということである。規模を拡大している既存企業ほど、製品分野の高付加価値化、製品の品質の改善、生産性の向上といった質的向上に成功している。第二は、これらの質的向上をリードしているのは、教育水準が高く、自ら創業する前にマーケティングや企業経営に携わった経験のある経営者であることが明らかになった。教育水準の高い経営者やマネージメントの経験のある経営者ほど、企業の生産規模が大きく、労働者一人当たりの生産性が高い。教育水準は一般的人的資本、マネージメントやマーケティングの経験は特殊的人的資本を表している。ここでは詳細は省略するが、経営者の人的資本のタイプによって質的向上の異なる側面に効果が強く出ることが、本研究の分析で明らかになった。第三に、高付加価値化に伴い経営者の社会関連資本(ソーシャルキャピタル)の重要性も高まっている。アパレル産地では、かつて村を出てロシアや東ヨーロッパへ移住し、その後商人となった越僑(Vietkiew)の仲介によって、これらの地域へ製品を輸出してきた。輸出を特に伸ばしているのは、越僑と親戚関係にある経営者である。建設資材産地では、親や兄弟が同業者である場合の方が高度な製品分野の選択しや製品の品質も高い。このように高付加価値化は親族の絆に依存している面があることも明らかになった。
 これらの研究成果のうち初めの二点は、途上国における産業集積の発展に関する園部・大塚の先行研究(例えば Cluster-Based Industrial Development: An East Asian Model, 2006, Palgrave-Macmillan)と共通性が高い。園部・大塚は、産業集積が新規参入による生産拡大の後で、質的な向上を伴った成長を始め、それを牽引するのは学校教育による一般的人的資本の豊富な経営者であることが多いと論じ、多くの事例研究によってその議論を実証している。本研究の結果は、それを支持するものである。ただし、園部・大塚が、経営者の特殊的人的資本の効果については曖昧な議論に終始しているのに対して、本研究はマーケティングの経 験とマネージメントの経験がそれぞれ違った側面で質的向上に貢献することを明確に示した。この結果は、北ベトナムにおいてこれらの特殊な人的資本あるいは 専門的な人材が不足していることを反映したものと解釈できる。また、本研究の第三の発見として社会関連資本の重要性を実証したことは、園部・大塚の産業発 展論にはない新しい貢献である。社会関連資本、とりわけ親族の絆に企業経営が強く依存しているということは、裏返して言えば、親族のネットワークの外に販路を拡大することや、外部の有能な人間を企業の中枢に採用して組織を拡大させることが、北ベトナムの企業にとって甚だ難しいことを示唆していると言えよう。これらの結果に基づいて、本論文は経営能力の強化のための施策の重要性を論じて結論としている。
 なお、本論文の第3章を雑誌向けの論文として仕立て直したものをJournal of Development Studies誌へ投稿したところ、9月22日付けで同誌より書き直しの要求があった。それに付された2人のレフリーのコメントとエディターの指示は非常に好意的である。現在、これらのコメントや指示に従って論文の改訂を進めている。第4章を書き直した論文はJournal of Comparative Economics誌へ投稿している。
 
II. 審査結果報告
平成20年9月16日(火)に行われた本論文の発表会に引き続き、同日午後4時から審査委員会が開催された。審査委員は主査の園部哲史教授、副査の大山達雄教授、大野健一教授、大塚啓二郎教授、山野峰准教授、戸堂准教授(東京大学)の6名によって構成された。審査委員会は本研究の問題意識、社会関連資本の重要性を実証した新しい貢献、厳密な統計学的検証などに対して高い評価を与えるとともに、本論文が現場で収集したデータを用いた労作であることを称えた。ただし審査委員会は、次の諸点に関して改善の余地があることも指摘した。
 

  1. どこにオリジナリティがあるのかをより明確に説明するべきである。

  2. 第4章の建設資材産地に関する章では、製品分野を高付加価値分野から低付加価値分野まで5段階に分類しているが、その分類はどのような意味でどの 程度まで適切であるのかを説明するべきである。さらに投入産出の構造や費用条件などを詳しく説明すれば、分類の適切さについて説得性が高まるであろう。また、分類の基準を少し変えても分析の主要な結果には影響がないという意味で頑健な結果が得られているのかを示すべきである。

  3. 検証する仮説には、より具体的な表現に書き直したほうが良いところがある。

  4. ソーシャルキャピタル、とくに越僑の重要性に迫ったことは高く評価されるが、ベトナムに固有なことと途上国全般に共通することを区別しながらもう少し議論を深めることが可能であろう。

  5. 分析結果をまとめる際に、定量的な発見への言及をもう少し増やすと良いであろう。

 

上記のコメントに対して、著者は直ちに論文の修正を行い、修正稿を提出し、主査の最終確認を経て博士論文の最終版として提出した。審査委員全員は、本論文が本学博士論文として妥当であるとの結論に達した。  

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