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Dynamics of Exchange Rate Regime Transition: An Application of the Multi-state Markov Model

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: Monzur Hossain
学位名: 博士(政策研究)
授与年月日: 2007年3月28日
論文名: Dynamics of Exchange Rate Regime Transition: An Application of the Multi-state Markov Model
主査: 大野健一
論文審査委員: 大山達雄
大来洋一
Kaliappa Kalirajan
Saang-Joon Baak(早稲田大学 国際教養学術院 助教授)

I.論文内容要旨
 
 本研究は、各国の為替制度の変遷のダイナミクスとその原因を、この分野にこれまで使用されなかった手法を用いて統計学的に解明しようとするものである。この研究の内容と重要貢献は以下の3つである。
 
  第1に、Multi-state Markov Modelという手法導入自体の、実証分析上の新地平開拓の貢献。この手法は、健康・病気・死亡の間の状態移転といったような、生物学・病理学によく使わ れる手法であるが、これをはじめて国際金融に本格的に導入するものである。ここでの重要な仮定は、状態間の移動確率が直前状態にのみ依存することであり、 これは市場心理や過去の履歴が政策に影響を及ぼすと考えられる為替市場に適用する際に注意を要するが、一方で、よりモデル中立的に移動確率を描写し原因を 探ることができるという操作性・汎用性において優れていると思われる。本稿では、為替制度間の移動とその原因をシンプルな定式化で研究しうる新枠組を提示できたといえる。類似先行研究としてはPaul Massonのものがあるが、ホサイン氏の分析はそれよりもはるかに精緻なものである。また為替制度の識別において、公式制度と実際の制度の相違、観察値と真の値の乖離といった副次的問題にも統計的解決を与えている。
 
 第2に、Bipolar Viewすなわち「資本移動が自由な世界においては為替制度は絶対固定か自由フロートかの両極端しか維持できない」という学会の有力な見解につき、上記モ デルを用いて明快な評価を与えたこと。為替制度を固定・中間・フロートに3分類した上で、1980年代・90年代にわたるクロスカントリ年次データを用いて検討したところ、①中間から固定・フロートに向かうダイナミズムだけでなく、その逆の動きも観察される、②両極端の制度に向かう長期傾向は認められるが、それは金融制度発達など経済成長の自然な結果であり、通貨危機による短期的・強制的逸脱ではない、③両極への長期収束は発展途上国には認められない、 といった結果が得られた。これはBipolar Viewを弱い意味で支持するものの、現実は、提唱者が想定するような「投機攻撃により為替制度が維持できなくなる」といった不安定イメージからは程遠いものであることが確認された。これらは、この論争をめぐる研究を拡大・深化させる実証的貢献である。
 
 第3に、歴史的に見ると、固定 レート制とフロート制のいずれがよいかについての議論は「最適通貨圏理論」「マクロモデルにおける安定化問題」「通貨危機分析」の3つの枠組から研究されることが多かった。それぞれの枠組からは、何が為替制度を決める要因かについて異なる仮説が提示されている。本研究は、統計分析を通じて、これらのいずれが妥当な仮説であるかを検討することができた。前2者が重視するマクロ・ファンダメンタルズは、ホサイン氏の実証研究では為替制度の変遷を全く説明できな かった。また上述したとおり、為替危機も説明力を持たなかった。固定あるいはフロートに向かう主な要因はその国の発展段階、とりわけ金融制度の整備であり、この結論はきわめて常識的ともいえるが、それを全く新たな統計手法を用いて確認した形となった。
 

II 審査要旨
 
 2007年2月23日午後2時より開催された博士論文発表会に引き続き、大野健一教授(主査)、大山達雄教授、大来洋一教授、カリアッパ・カリラジャン教授、サン・ジュン・バク教授(早稲田大学)の5名からなる審査委員会が開か れた。各委員による5段階採点の平均値は4.44点であり、合格の基準となる4.0点を大きく上回った。ただし改善のための以下のコメントが提出された。
 

  1. 序章と第1章において、先行研究の貢献をより正当に評価し、自己の貢献については積極面と限界の両方を明確に記述すること。

  2. 序章に数式を入れないこと。

  3. この枠組で通常の仮説検定ができないか検討し、できないときはその理由を明記すること。

  4. 記述を第1人称としないこと。

  5. 実証研究結果を踏まえると、Bipolar Viewについては「部分的に受容された」という文面よりはより否定的に評価すべきであること。

  6. 一部残る誤字を修正し、全稿を最終チェックして文章を完璧にすべきこと。

 

 これらのコメントに対し、ホサイン氏は2007年3月12日にこれらをとりいれた修正稿を主査大野健一教授に提出、修正確認と主査の最終承認を得たうえで、3月15日より他の審査委員に回覧・確認された。
  審査委員会は、査読、発表会での報告と質疑応答、その後の改訂を通じて、本学位請求論文が国際金融政策問題の実証分析に対しオリジナルで重要な貢献をしており、博士論文にふさわしい学問的業績であると確認した。ゆえに審査委員会は、学位請求者モンズール・ホサイン氏に博士(政策研究)の学位を授与することが妥当であると結論する。

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