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Essays on Impact of Macroeconomic Policy and Demographic Change on China’s Growth and Volatility(マクロ経済政策と人口変化が中国の経済成長と変動に与えた影響の分析)

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: Min Zhao
学位名: 博士(開発経済学)
授与年月日: 2010年9月1日
論文名: Essays on Impact of Macroeconomic Policy and Demographic Change on China’s Growth and Volatility(マクロ経済政策と人口変化が中国の経済成長と変動に与えた影響の分析)
主査: 細江宣裕准教授
論文審査委員: James Rhodes教授
Wade Pfau准教授
Minchung Hsu助教授
大来洋一客員教授・アカデミックフェロー
大津敬介助教(上智大学)

I. 論文内容要旨
 中国経済が戦後直面してきた問題とその克服の仕方は非常に興味深い。ひとつは、 「改革開放」によって、計画経済から市場経済への移行を成し遂げつつあること。いまひとつは、「一人っ子政策」によって、人口抑制を強力に推し進め、(1人あたり)経済成長率を高めてきたことである。これらによって急速に経済を成長させ、世界の工場とも呼ばれる存在になった。こうした通説は、一般的なマクロ経済理論と完全に整合的である。しかしながら、現実問題としてどの程度、あるいは、そもそも本当に、これらの政策が中国の長期的な経済成長に貢献してき たかどうかは、ひとえに実証的課題として残されている。さらには、市場経済を前提とした短期的なマクロ経済運営上の問題点についても、慎重な吟味が求めら れる。本研究は、これら2つの政策のマクロ経済への影響について、長期と短期の両面から分析を行い、中国のマクロ経済政策上の課題を明らかにし、その解決 策を提示しようとするものである。
 博士論文は3章から構成されている。まず、第1章で世代重複モデル用いて成長会計分析を行い、経済成長の要因分解を行っている。そこでは、改革開放政策の実施前後でどのような変化が起こったかが明らかにされており、改革前には人口的要因が経済成長を大きく支配し、一方、改革後には生産性の野木が大きな貢献を果たしていることを明らかにしている。一人っ子政策によって人口を抑制すれば、短期的には1人あたり経済 成長率は上昇する。しかし、長期的には、それは労働人口の低下や人口構成の高齢化という副作用を生む。第2章では、こうした影響について同じ世代重複モデ ルを用いて分析を行っている。その際には、中国特有の都市と農村の間の種々の格差に注目している。一人っ子政策に関していえば、都市では厳格な規制がなさ れているものの、農村では緩やかなものとなっている。一方、熟練労働者は都市に多く、非熟練労働者は農村に多い。地域間で異なる一人っ子政策の強制度合い は、地域間の人口成長率に影響を与えるだけでなく、熟練労働者と非熟練労働者の間の比率にも影響を与える。論文中では、都市と農村の間でどのような産児規 制の緩和を行うべきか、また、(おもに農村で)産児規制緩和を行った場合に増加する非熟練労働者を教育によってその生産性を引き上げ、熟練労働者とするた めの教育補助金の効果についても分析を行っている。
 これらの長期分析の中では、一定のスムースな経済の拡大(あるいは縮小)を前提とした分析が 行われている。その一方で、市場経済化は、中国が今後より大きな景気変動、あるいは、近年深刻な問題としてわれわれが直面した危機的状況に陥る可能性を高める。したがって、長期的分析のみに基づいてあるマクロ経済政策の功罪を語ることは許されない。そこで、第3章においては、リアル・ビジネス・サイクルモ デルを構築し、短期的な景気循環に対して、これまでの中国政府がどのような経済運営、とくに財政政策を行ってきたかを分析している。分析の結果、改革前には景気循環をより大きくするように運営されていたものが、改革後には、景気循環を縮小するように運営されるように変化してきたことが明らかにされた。途上 国一般について言えることであるが、分析のためのデータの入手可能性と、また、入手できたとしてもデータの整合性の問題が中国のマクロ経済分析に関する研 究の進展を大きく妨げてきた。本研究では、入手可能なデータをもちいて適切にこれを補正することでこの問題を克服し、この分野の研究を大きく進展させてい る点が特筆される。
 本博士論文のうち、第2章に相当する部分については、2009 International Conference of Economic Growth, Dynamics, and Policies, held at GRIPS, November 20-21, 2009と、World Economist Forum, the World Bank, Washington DC, April, 2009の2つの国際学会において口頭報告された。また、第2章に相当する部分については、2008 International Conference of Economic Growth, Dynamics, and Policies, held at GRIPS, September 19-20, 2008および、2009 Far East and South Asia Meeting of the Econometric Societyにおいて口頭報告され、現在学術雑誌において査読中となっている。
 

II. 審査結果報告
 口頭報告会に引き続き、審査委員(細江宣裕准教授(主査)、James Rhodes教授、Wade Pfau准教授、Minchung Hsu助教授、大来洋一客員教授・アカデミックフェロー(以上、政策研究大学院大学)、および、大津敬介助教(上智大学))の6名全員が出席して最終審査 会が開催された。その際、博士論文に示された研究内容は、上にまとめたように、中国の最新のマクロ経済分析として高い質と先進性をもつものであり、博士号 を授与するに十分なものであるという評価がなされた。ただし、論文の内容のうち、数値分析の結果について、とくに、世代重複モデルの効用関数の中の自分の 子の消費に関する係数、割引率、および、生産関数の中の代替の弾力性の値が論文中で仮定した値以外のものになっても一定の頑健性を有するか否かについて検証する必要があるという指摘がなされた。これに関して必要な感応度検査を行い、この結果について補うという微修正を求められた。筆者はただちにこの審査委 員の意見にしたがって修正を行った。後日提出されたこの改訂稿を主査が確認し、各委員の了解を得た上で博士論文の最終稿として受理し、上記学位申請者に対 して博士号を授与することとした。  

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