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欧州航空政策の枠組みの形成・発展過程:制度の役割に着目しての事例研究

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: 源内 正則
学位名: 博士(政治・政策研究)
授与年月日: 2010年4月14日
論文名: 欧州航空政策の枠組みの形成・発展過程:制度の役割に着目しての事例研究
主査: 飯尾潤教授
論文審査委員: 大山達雄教授
岩間陽子教授
秋吉貴雄准教授(熊本大学大学院社会文化科学研究科准教授)

I. 論文内容要旨
 本論文は、1970年代から2004年頃までの、EC/EUの航空政策の形成・発展過程を事例としつつ、欧州統合や航空政策の発展プロセスを研究したものである。 
 
 序章では、事例である欧州共通航空政策の政策過程を研究することに固有に意味があること、また欧州統合プロセスを理解するだけではなく、わが国を含め航空政 策について考える際に重要な示唆を与えうることが論じられる。また政策遺産の重みの下にある行政において、着実な小さな変革の積み上げによって、根本的な 改革を生み出すにはどうしたらよいかという問題意識が示されている。 
 
 第1章では、欧州統合や航空政策、政治学における制度論など、いくつかの分野にわたって先行研究が検討され、アジェンダ設定から政策決定に至る政策過程を追う公共政策研究の枠組みによって対象を分析する方針が示される。そして、既存の理論を作り直す形で「制度に着目しての政策変容の実現と連鎖におけるプロセスの構造化モデル」と「長い時間軸における制度的枠組みの進展と制度の役割変化のモデル」が示され、それらを手がかりに、事例を記述することが示された。第2章においては、具体的な事例の記述に先立ち、航空政策分野の特質と、欧州統合と政策形成プロセスの解説によって、研究対象領域の性格が示された。 
 
 続く3つの章では、対象領域を時期と域内/域外の区別によって3つのかたまりに分けて事例が記述される。第3章では、1970年代から90年代初めを対象に、EC域内での航空政策の共同体化と航空規制の自由化の進展の過程が記述された。そこでは1970年代の欧州司法裁判所(ECJ)の判決による衝撃を受け、1970年代末から80年代半ばにかけて、政策アイデアとしての航空規制緩和の受容・波及が起こり、さらに1980年代半ばからの欧州統合過程の急加速によって、政策変容に向けた「エネルギー」が蓄積される様子が記述される。そして、1986年のECJ判決が契機となり、1987年に規制緩和の第1次パッケージが実現したとされる。この限定的な規制緩和に続いて、第2パッケージに関する議論が開始されたところ、自由化を目指す動きが強まり、最終的には1992年の第3次パッケージにおいて、カボタージュを含めて徹底した自由化が実現したとされる。この一連の経過において、イギリスやオランダといった一部の加盟国と欧州委員会が議論を牽引したものの、その議論に土台を与え、決定的な作用を与えたのは、欧州共同体法であり、ECJ判決であったと分析される。 
 
 第4章におい ては、1990年代から2004年頃までを対象に、共同体域内における航空政策の包括化と航空政策空間の構築が記述される。そこでは、域内で誕生した統合 航空市場に実体を与え、その機能を確保すべく、航空政策の整備が進められる様子が記述される。たとえば、空港におけるスロット配分ルールの明確化や、空港 における荷物運搬の規制弾力化など競争環境の整備が行われたほか、航空安全規制や航空管制といった領域まで、欧州の航空政策が包括的に整備された。ここで は、欧州委員会が取り組むべき課題を示して改革を促進したが、欧州統合という制度の自己強化の側面が作用し、欧州統合に対応した航空政策を模索するという意味で、欧州統合が加盟国の航空政策における選好形成にまで影響を与えるようになったとされる。 
 
 第5章では前2章と並行して生じた域 外航空関係の共同体化が記述され、共通航空政策枠組みの域外関係への拡張と国際的枠組みを欧州が主体的に変革しようと挑戦するに至ったことが述べられる。1970年代のECJ判決において示された黙示的権限原則が、欧州委員会に対して一貫して強力な法的土台を提供したものの、共同体法上の法的権限が解釈上 不明確であり、また域内での航空政策の共同体化が進展していない段階においては、強力な推進役となる加盟国がなかったこともあり、域外関係の共同体化は難航していた。しかし、1990年代半ばより、アメリカによるオープンスカイ政策の圧力と、グローバル化に適合するための動きとあいまって、欧州共同体単位での新たな国際的航空政策の枠組みを追求する動きが出てきた。また、欧州航空政策の制度的枠組みが次第に蓄積され、欧州という存在が加盟国などアクターの認識にも内面化されていった。そして、理事会での決定は実現しなかったにもかかわらず、むしろ黙示的権限原則に基づく2002年のECJ判決(オープンスカイ判決)が契機となって、域外関係の共同体化が実現したとされる。 
 
 第6章では、このような記述を振り返り、欧州航空政策枠組みの形成と連鎖的発展という視点から、分析が加えられる。そこでは、政策遺産の下で固着化した状況に対する、いくつかの「揺り動かし」によって、変容に向けた 「エネルギー」が付与・蓄積され、何らかの契機によって、政策変容が具現化していくとされる。そのとき、政策変容により構築された新たな制度的な枠組み が、内生的作用を及ぼして、各アクターの戦略形成や選好形成へ作用するという現象が生じたという。そして、統合市場の機能が確保されるように政策過程がつなぎ合わされるとともに、欧州域内から隣接国、欧州域内から域外関係へと問題が拡大する変容指向型の価値観ベクトルが作用し、その価値観ベクトルは、制度的枠組みの自己強化作用と見ることができるとされる。そして、こうした制度の持つ自己強化的な側面が、とりわけ長期的に内生的作用を及ぼすことで、本質的 な政策変容が可能となったとされる。 
 
 終章では、論文内容の要約ののち、政策的含意が示されている。第1に航空政策分野における「欧州」の展望として、欧州航空政策の制度的枠組みは簡素化されつつも地盤強化され、一層強固になっていくと結論づけられた。これに関して、グローバルな規模 で航空の多国間協定が一気に進展する状況にないなかで、「欧州」が自らのアプローチを押し出して地域間協定のネットワークを拡張し、国際的に重みを増すこ とが予想された。第2に今後の航空政策分野に関する含意としては、主権国家を唯一の統制主体であると限定しないこと、国際航空と国内航空を峻別しないこと、規制が国境を越えて一元化していき、空港の乗り入れやカボタージュ、外国資本などの問題も含めて自由化が進展してゆくことを織り込むことなど、既存のシカゴ条約体制からは構想しにくい要素を考慮して航空政策を立案する必要性が示された。第3に政策過程一般に関し、既存の制度的枠組みのなかからでも、既存の政策形成過程とは異質な要素を組み込むことと、変容指向型で強度なベクトルを制度的枠組みに組み入れ、大きな方向性の下で漸進的な政策変容を連鎖させるとともに、制度的枠組みを内面化させることでアクターの認識を変え、基礎的信条レベルでの転換を起こすことで、内実のある制度的な変容が実現する可能性 があることが指摘された。
 
II. 審査結果報告
 平成22年2月10日(水)15:30-17:00の博士論文最終報告に引き続き、主査である飯尾潤教授、副査である秋吉貴雄准教授(熊本大学)、大山達雄教授、岩間陽子教授による審査委員会が開かれた。この際、本論文について、次のような意見が出された。 
 

  1. さまざまな文献に当たっているだけではなく、対象となる欧州航空政策について、膨大な一次資料ともに、関係者への積極的なインタビューを行っており、資料的に十分な裏打ちのある優れた研究である。 

  2. 理論的にも数多くの文献に当たって、それらを咀嚼し、独自の枠組みを作成していることは高く評価できる。また、幅広い文脈で歴史的な経緯を押さえた事例研究としての意味も大きい。 

  3. 理論面で制度論に依拠するとしているが、制度の意味などがわかりにくくなっているほか、アクター間の圧力関係や、拒否権ポイントなどについての説明が不足しているのではないか 

  4. 結論部分において、個人的な思いも含め、もっと積極的に主張を展開してもよかったのではないか。 

  5. EUに固有の問題と、より普遍的な問題との切り分けがあった方が、わかりやすい論文になったのではないか。 

  6. 航空政策に関連する、技術革新や経済情勢の影響などにも、言及した方がよいのではないか。 

 

 全体として、本学の博士にふさわしい内容であると全員の意見が一致し、上記で指摘された諸点について修正したうえで、学位を授与することとしたが、 その際、本人が既にパリ第一大学の博士課程でコース・ワークを終えていること、本学におけるコース・ワークの成績も良好で、QEについても当時の基準に従 い筆記試験2科目に合格しており、かつ論文内容において学術的な傾向が強いことを考慮して、政策プロフェッショナルプログラム所属ではあるが、博士(政策 研究)ではなく、博士(政治・政策研究)= Ph. D. in Governmentの学位を授与すべきであるという判断が下された。論文修正後の措置に関しては、本人から各審査委員への説明を前提に、最終版承認の判 断は主査にゆだねられた。その後、平成22年4月5日に修正した最終版が提出され、主査が適切に修正されていることを確認した。

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