学生の方

立法補佐機関の制度と機能 -各国比較と日本の実証分析-

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: 蒔田 純
学位名: 博士(政策研究)
授与年月日: 2012年4月25日
論文名: 立法補佐機関の制度と機能 -各国比較と日本の実証分析-
主査: 飯尾 潤
論文審査委員: 増山 幹高、大山 達雄、待鳥 聡史(京都大学)

Ⅰ.論文要旨
 本論文は、著者が、議会の立法行為・議員の立法活動を補佐するための機関として、各国の具体的な機関を分類している「立法補佐機関」のあり方について、比較の観点を交えつつ、日本の実態と特徴を明らかにするとともに、その改善に関する議論の前提を確認する事例研究である。
 序章では、先行研究の整理をしつつ、論文の目的や課題、使用する手法について解説している。そして、上位制度が下位制度を規定するという基本的な視角をたて、政治制度のありかによって、下位制度である立法補佐機関のあり方も変わってくるという観点から、制度と実態を整理すること目指すとする。
 第1章では、「立法補佐機関」の定義をした上で、一定の類型化を行い、日米英独の各国における立法補佐機関の制度的概要を解説している。委員会付属機関、議会と所管内調査機関、議員法制機関、議会調査機関、予算補佐機関、会計検査機関、政策立法担当秘書が、立法補佐機関として対象とされる。そして、日本を基本にしつつ、大統領制の米国、議院内閣制で本会議中心の英国、議院内閣制で委員会中心のドイツという制度的な違いに着目して、比較を進めることとした。そして、各国における立法補佐機関がどのような形になっているのかが整理される。
 第2章では、日米英独における立法補佐機関の制度的発達に関する要因を、比較研究の観点から探っている。その結果、立法補佐機関は圧倒的に米国において制度的に発達しており、議院内閣制諸国での量的発達は限定的ながら、日本は英独に比べると、制度的に充実した立法補佐機関を持っているということが明らかにされた。計量的な分析によって、議院内閣制か大統領制かという違いのほか、議院内閣制におけるアリーナ型議会か変換型議会かといった議会類型や、官僚や政党(会派)スタッフのあり方なども、関連を持っていることが明らかにされる。
 第3章では、前章を受けて、より具体的に日米英独の立法過程において、各立法補佐機関がどのような役割を果たしているのか、それぞれの活動実態を追いながら、そうした特徴が出てくる要因を解明しようとしている。その結果、米国では法案の議会提出前後を問わず立法補佐機関の活動が活発であり、英国では法案提出前に役割が限定されていること。両者の中間であるドイツや日本においては、ドイツにおいて委員会での実質審議がなされ変換型の傾向が強いのに対して、日本においては委員会においてもアリーナ型の要素が強いという違いがあるが、ドイツではそうした審議の補佐を行政官僚制や会派スタッフが担っており、日本では、議員の立法補佐機関への需要が限定的であるという違いがあることが説明される。
 第4章では、対象を日本に限定し、日本の立法補佐機関の活用のあり方が、時系列的にどのように変化してきたのかを検討し、計量的な分析を行っている。その結果、選挙制度の変更による政権交代の可能性の変化が、一定の影響を与えており、とりわけ対案路線をとる野党が現れたときには、立法補佐機関への需要が増大することが示された。
 第5章では、日本における衆議院調査局、参議院調査室、国立国会図書館調査及び立法考査局の活動実態に関して、その職務や組織のあり方を具体的に検討している。そうしたなかで、情報提供中心の業務実態のため、職員意識においてスタッフ的傾向が浸透し、政治的中立性への配慮から消極主義的スタンスがあり、また情報においても人事交流においても、行政官僚制への依存傾向があることが示された。
 第6章では、引き続いて、日本における衆議院法制局と参議院法制局の活動実態を分析し、米国立法顧問局との比較を交えて、その特徴を検討している。その結果、日本においても法案の内容に関わる補佐を行うという意味での立法補佐活動は行われているものの、その活用の仕方は、議院内閣制の特徴がよく現れたものであり、活動実態には日米で大きな違いがあることが明らかになった。
 第7章では、日本における政策担当秘書の制度と活動実態について、具体的な論点をおいながら、その実態を整理している。上記のような他の立法補佐機関と同様、立法補佐業務への需要が限定的な日本においては、政策担当秘書の政策関連業務は限定的であり、そのため試験合格者と選考採用者で業務内容に大きな違いはないこと、また2009年の政権交代前後で秘書業務が大きな変化を生じているとはいえないことが示された。
 第8章では、国会議員を対象とするアンケートを用い、立法補佐機関の活用のあり方を、具体的に検証している。そこでは、議員は政策関連業務に際して、立法補佐機関もさることながら、行政官僚を頻繁に利用していること、ただ与野党の区別は行政官僚制の利用に差をもたらしていることが明らかになり、立法補佐機関の活用程度は、与野党の別や行政官僚制との関係で決まってきている状況が明らかにされた。
 終章では、全体の結論ととともに、学問的な含意ととともに、現実政治への政策的含意を提示している。そこでは、立法補佐機関の制度的発達は、政治制度や他のアクターの状況によって規定されているが、日本の立法補佐機関は大統領制の米国には及ばないものの、議院内閣制の英独に比べれば制度的に発達した状況にある。しかし実際の立法過程において、日本の立法補佐機関はその制度的発達に見合う機能を果たしておらず、制度と機能との間に差分が生じている。とりわけ日本において、与野党の差はあっても、双方の政党や議員が行政官僚を容易に利用できることは、立法補佐需要を小さくする効果を持っている。もっとも、日本の立法補佐機関は、それぞれ特色ある活動を行っていることが結論とされた。そこから、政策的含意として、制度的あるいは量的な充実を唱える従来の立法補佐機関充実論の限界が明らかにされ、他の制度やアクターとの関係で、現実的な改善案が検討されるべきであるとされ、愚弟的な提言がなされている。

 

 

Ⅱ.審査報告
平成24年3月5日(月)の博士論文最終報告に引き続き、主査である飯尾潤教授、副査である増山幹高教授、大山達雄教授、待鳥聡史教授(京都大学大学院法学研究科)による審査委員会が開かれた。この際、本論文について、次のような意見が出された。

  1. 日米比較など限られた視角による比較研究か、一部分についての実証研究が散見されるだけであった国会事務局や国会議員秘書など立法補佐機関に関して、4カ国比較研究に加えて、日本の実態に関する調査を実施するなど総合的な研究であり、主体に即した事例研究として意義ある研究である。
  2. ややもすれば、量的充実の側面だけが強調される立法補助機関の強化論に関して、日本のそれが量的には比較的充実しながら、機能面で大きな問題を抱えていることを指摘して政策提言につなげたことは、穏健ながら、意味のある政策的含意を引き出したものであるといえる。
  3. データの制約上やむを得ない面もあるが、一部データの処理に不正確なところがあるほか、必ずしも適当ではない変数を用いた分析などもあるので、それぞれの分析の限界について明確にした上で、叙述を進めるべきである。
  4. 議会のあり方に関するポルズビーの類型を、あまりに拡張して用いている部分があり、概念の本来の守備範囲に即した説明を心がけるべきである。
  5. 政策提言に関して、やや論理が錯綜している部分もあるので、もう少し整理して示した方がよい。

全体として、事例研究として本学の博士にふさわしい論文であると全員の意見が一致し、上記で指摘された諸点について修正したうえで、博士(政策研究)= Doctor of Policy Studies の学位を授与すべきであるという判断が下された。論文修正後の措置に関して、一任を受けた主査が最終版について承認し、修正した最終版が提出されたことを確認した。

 

以 上

 

〒106-8677 東京都港区六本木7-22-1

TEL : 03-6439-6000     FAX : 03-6439-6010

PAGE TOP

Print Out

~