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垂直統合型電気事業者の経営効率性の計測

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: 筒井 美樹
学位名: 博士(政策研究)
授与年月日: 2007年4月25日
論文名: 垂直統合型電気事業者の経営効率性の計測
主査: 大山達雄
論文審査委員: 刀根薫
中村玲子
諸星穂積
山野峰
根本二郎(名古屋大学)

I.論文内容要旨
 
 わが国においても1995年の電気事業法改正以降、段階を踏みつつ着々と自由化が進展している。電力自由化が進展すると、一般的には新規の電力事業者が既存事業者の供給エリアに参入可能になり、当該エリアの需要家に電力を供給可能となる。またさらに、既存の電気事業者も他の供給エリアの市場に参入が可能となる。このような新たなる競争環境において、既存事業者は市場で生き残る為に様々な戦略が必要となる。代表的な戦略の一つが経営効率化であり、多くの電気事業者は実際に様々な効率化施策を試みている。
 本研究では電気事業者の効率性を計測する為の、より実用的な手法の開発を試みている。効率性計測の代表的な手法には、修正最小二乗法(COLS)、データ包絡分析法 (Data Envelopment Analysis : DEA)、確率的フロンティア分析(Stochastic Frontier Analysis : SFA)などが挙げられるが、本研究では特にDEAを中心に活用し、これまで指摘されてきたいくつかの欠点を補うことで、より実用的で現実的な電気事業の効率性計測の為の手法を提案している。
 より現実的な効率性計測を目指すために、1)垂直統合型電気事業者の垂直的構造の考慮、2)事業者にとってコントロール不能な要素の除外、3)より詳細な非効率性の原因分析、を達成した効率性モデルを構築する。Network DEAモデルを利用し、さらに部門間の結合度を考慮可能なConstrained Network DEA (CNDEA)モデルを新たに導入し、事業活動で利用される複数のインプット、複数のアウトプットの量を元に、DEA手法を用いて事業者間の相対的効率値を計測する。
 コントロールできない事業環境の格差が、DEAの効率値に包含されてしまっていることは、改善されなければならない問題点であるため、環境要因、データの誤差を排除した、真の効率値の計測を得る為に、多段階データ補正手法を採用している。
  多段階データの要素となっているDEA手法の一般的な手法としてCCRモデルやSBMモデルが挙げられるが、本研究では、これらの既存のモデルにおいて指摘されてきた短所を改善したConnected SBM(CSBM)モデルの提案を行っている。一方、回帰モデルについては、事業者ダミー付きTobitモデルを利用している。データ補正方法についても、データ調整を行っている。これらの改良型モデルを採用した多段階データ補正手法により、真の効率性計測を可能とするモデルが提案される。
 本研究では、5つのDEAモデルを併用することで、総合効率の非効率の部分を技術、規模、価格、投入コスト配分、生産物配分のそれぞれに非効率に分解する。 また、前述の多段階データ補正モデルを併用することで、技術非効率、価格非効率については、環境要因と純粋な非効率に分解可能である。その結果、本研究で は総合経営非効率を7つの要因に分解している。
 本研究では、電気事業を評価するより実用的なモデルを日米電気事業者の効率性比較に適用している。我が国の電気料金は国際的に割高と指摘されているが、その要因をこのモデルを通じて検証している。電気事業者の経営効率性の国際比較を行うことで、その原因について定量的な計測を試み、総合効率性の日米平均値を示している。平均値で比較すると、米国の方が14%ほど日本を上回っている。それでは、この差異がどのような要因で生じているのかを検証するため、非効率部分に着目する。図16は総合非効率を分解した。日本の価格非効率が著しく大きいことが分かる。これは、そのまま日本の電気料金が高い要因に繋がっており、要素単価が高いことがその主たる要因と言える。
 日本の価格非効率はその75%が補正されている。このことは、日本の電気料金は割高ではあるが、主に電気事業者の外的要因に依存していることを示唆する。日本の価格非効率は、補正によって大幅に小さくなったものの、依然最も大きな非効率要因となっている。一方、米国では、投入コスト・生産物の配分の非効率が総合非効率の大きな要因となっていることが示される。
 

II 審査要旨
 
 本論文の最終報告に引き続き、平成19年3月26日(月)午後3時から審査 委員会が開催された。審査委員は大山達雄教授(主査)、刀根薫リサーチフェロー(副査)、中村玲子教授(副査)、諸星穂積助教授(副査)、山野峰助教授 (副査)、根本二郎教授(名古屋大学)の6名であったが、 本論文について以下のような意見が出された。

  1. 電力自由化の流れが進行するという新たなる競争環境において、多くの電気事業者は実際に様々な効率化施策を試みている。本研究では電気事業者の効 率性を計測する為の、より実用的な手法の開発を試みている。効率性計測の代表的な手法として、本研究では特にDEAを中心に活用し、これまで指摘されてきたいくつかの欠点を補うことで、より実用的で現実的な電気事業の効率性計測の為の手法を提案している。研究成果についてもいくつかの国内外の学会において 発表しており、学術誌に2編が刊行予定であることからも本研究成果は本学博士論文の水準に十分達していると言える。

  2. 本論文の主要成果である、より現実的な効率性計測を目指すための実用的モデルの特性としての垂直統合型電気事業者の垂直的構造の考慮、効率性指標に含まれる事業者にとってコントロール不能な要素の除外、より詳細な非効率の原因分析、といった点は、Network DEAモデル、さらに部門間の結合度を考慮可能なConstrained Network DEA (CNDEA)モデルの新たな導入と共に本論文のオリジナリティーを示すものとして評価できる。

  3. 本論文に示される研究成果をより具体的、効果的、明確に表すために、論文の構成、章、節のタイトル、論理の流れをもう少し工夫できるのではないか。

  4. 非効率性の要因分析は評価できるが、この成果をより具体的な政策提言に結びつけることが効果的であり、また望まれる。

  5. モデルの適用対象として日米比較を試みているが、価格支配力が異なる両者に対する価格非効率性の部分の結論は当然とも思えるが、それらを数値的に 明示した点は評価できる。異なるモデルによる異なる結果がそれぞれどのような評価が得られるのか、違いをどう説明するか、といった点でより詳細な議論があると良い。

  6. 各種モデルを提案する中で、データ調整、パラメタ設定という操作は結果にも大きく影響する重要な問題である。この点については、難しい課題ではあるが、少しでも何らかの理論的記述があると良い。

 

 上記のコメントに対して、著者は直ちに論文の修正を行い、修正稿を提出し、主査の最終確認を経た上で各審査委員との了解を得た上で博士論文最終版 として提出させることにした。審査委員は、このような手続きを経ることに合意し、本論文が本学博士論文として妥当であると結論付けた。

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