学生の方

行政需要に対応した道路維持体制の評価手法に関する研究 (A Human Resource Evaluation Method of Road Organization for the Road Maintenance Demands)

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: 大堀 勝正
学位名: 博士(公共政策分析)
授与年月日: 2009年10月28日
論文名: 行政需要に対応した道路維持体制の評価手法に関する研究 (A Human Resource Evaluation Method of Road Organization for the Road Maintenance Demands)
主査: 森地茂教授
論文審査委員: 伊藤大一客員教授
中村玲子教授
小澤一雅教授(東京大学)
大山達雄教授

I. 論文内容要旨
 多くの官庁では大規模な人員削減が進行しており、限られた人的資源のマネジメントが重要性を増している。特に、住民サービスに直接携わる現業部門においては、ベテラン職員が減少する中で品質を確保し、説明責任を果たすことが緊急の課題となっている。本研究は、そうした背景から、道路維持を対象として一般住民および行政の観点から「行政需要と経営資源の調和」を理念とした政策評価の実務的方法論の提言を行うことを目的としている。
 第1章では、本研究の背景と目的を述べたうえで、全体構成として2~4章で関連研究等の広範なレビューと本研究の位置付けの明確化、5~7章で提案を示した。
 第2章では、わが国の道路維持体制の歴史的経緯と現状を詳述し、道路利用者や住民等から透明性や効率性が求められている状況をふまえて業務面ならびに体制面における政策評価の課題を明らかにした。さらに、外部委託の拡大に伴う問題および課題を実態調査から明らかにした。
 第3章では、施設老朽化やNPM型行政改革等を先に経験した欧米の道路維持について制度面・体制面の変遷を調査した。各国の共通点として行政運営の透明性確保と効率化に注力し、組織マネジメントも含めて政策評価を積極的に導入しているが、アウトソーシングや地方分権などの運用レベルでは法体系や慣習をふまえ各国で独自性があり、行政需要対応においても時間的・空間的な特徴があることを示した。
 第4章では、人的資源マネジメントの観点から関連する理論 (行政学、経営学、経済学、数理計画学)を広範にレビューした。行政学からは、組織・定員に関する制度面(公務員制度改革、アウトソーシング等)、行政職員の行動様式に関する管理面(ストリート・レベルのディレンマ 、わが国特有の依法主義等)、政策評価を扱う政策面の3点から参考点を整理した。経営学では、人材こそ競争力の源泉であるとの認識(RBV)の高まり、配置や人材開発などの基本理論を整理した。経済学からは、情報・誘因・取引費用などをキー概念とし、組織活動のメカニズムを定量的に扱う既往研究から参考点を整理した。数理計画学(OR)からは、人員配置の最適化に関する既往研究(線形計画モデル、整数計画モデル、グラフモデル、分木型組織階層等)をレビューした。
 第5章では、以上をふまえて、道路維持体制構築における評価体系の提案を行った。具体には、行政需要に対応した人的資源マネジメントに関する評価体系の基本的な考え方を提案し、内部組織および外部調達における評価の要素と概念を体系化し、用語を定義した。 
  第6章では、一定数の行政職員を複数の出先機関に最適配置する評価手法を提案した。その評価においては、各出先機関ごとに異なる多様な行政需要に対応した 職員配置となるように、人的特性、組織能力、業績を包括的かつ定量的に評価するモデルを提案した。具体には、人員配置による複数出先機関の期待業績(リターン)と業績変動(リスク)のバランス、中長期的な人材育成に留意し、業務負担の公平性、資源配分の効率性、受益の有効性を考慮した3つの価値基準を同時に最適化する数理モデルをポートフォリオ理論に基づいて構築し、その適用事例も示した。なお、本研究成果の一部は、山口県等において実際の行政実務に活かされている。
 7章では、外部調達において価格と品質に優れた企業の選定を行い、かつ経営効率の改善を図るための総合評価落札方式の評価手法を提 案した。その主要な成果は、①道路維持の業務特性・工区特性(交通需要、地形、気候など)・経営効率に応じた総合評価項目、②企業選定から成績評定に至る 評価項目体系、③工区特性や業務実績をふまえた総合評価の数理的な配点設定手法、④国・県の実態調査及びデータ検証の4点である。
 以上をもとに、第8章では、本研究において得られた成果を総括するとともに、今後の研究発展につながる展望を提示した。
 
  以上のように、本研究は、行政実務において緊急の課題であるにもかかわらず、理論的根拠が確立されていない「人的資源の最適配置」ならびに「外部調達の総 合評価手法」について、道路維持を対象に実務的に有用な方法を提言した。行政需要や人的要素などを包括的に扱った「人的資源の最適配置」は、発想自体が新 規であり、変数を換えることで多分野への拡張性も高い。「外部調達の総合評価手法」については、近年、国土交通省他で本格導入している総合評価落札方式を ふまえて業務特性・工区特性・経営効率を企業選定時に反映するものであり、行政担当職員のみならず受益者から強く求められている品質確保の鍵となるもので ある。
 
 本研究の成果は、道路維持における行政需要に対応した体制構築(内部職員配置、外部調達)における政策評価のあり方、ひいては、行政改革等により流動化する現業部門の体制再構築において有益な政策提言である。
なお、本研究成果は既に査読付き学術論文(土木学会)に2編掲載、1編査読中であり、土木行政のアセットマネジメントに関する著書・雑誌・テキストにおいても知見が発表されている。
 

II. 審査結果報告
本論文の最終報告に引き続き、平成21 年8月31日(月)午後11時から審査委員会が開催された。審査委員は、森地茂教授(主査)、伊藤大一教授(副査)、中村玲子教授(副査)、大山達雄教 授、小澤一雅教授(東京大学)の5名であり、本論文について以下のような意見が出された。
 
 本研究は、現在の行政が直面する課題(スリム化、財源縮小、施設の老朽化、災害の多発等)に対して、政策(道路維持)の質的評価という学問的に扱いにくいテーマに取り組み、関連分野の勉学に励み、 社会的にも学術的にも新たな分野を拓いたものと大いに評価される。社会的価値としては、わが国のインフラを管理する地方公共団体にとって重要なテーマを取り上げ、充分な価値を出していると評価される。学術的価値としては、道路維持体制における人員配置の最適化問題にポートフォリオ理論を適用し、納得できる モデルを提示した点が最も高いと評価される。論文は、最新の研究成果をよくフォローし、論理的に構成されている。
 加筆・修正が望ましい点は、次の点である、

 

  1. オリジナリティや貢献(学術的価値、社会的価値)の部分をより明確に示すと良い。

  2. 行政組織や外部調達などの日本的慣行に対する鋭い洞察がある。この点を掘り下げると学問的(行政学)にも一層意味のある研究となる。

  3. 統計数値やレビューの表記の仕方で若干改善すべきと思われる点がある。

  4. データ等の制約があると思われるが、人的能力や業績などをより多面的に捉えると良い。

  5. 今後の研究発展につながる課題を学術的発展、社会的応用のそれぞれについて示しておくと良い。

 

 上記のコメントに対して、著者は直ちに論文の修正を行い、修正稿を提出し、主査の最終確認を経た上で各審査委員との了解を得た上で博士論文最終版と して提出させることにした。審査委員は、このような手続きを経ることに合意し、本論文が本学博士論文として妥当であると結論付けた。

〒106-8677 東京都港区六本木7-22-1

TEL : 03-6439-6000     FAX : 03-6439-6010

PAGE TOP

Print Out

~