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リサーチ・プロジェクト

2014/4/1 ~ 2016/3/31

国外所得免除方式の導入が多国籍企業の経済活動に与えた影響

研究代表者

近年、国境を越えた企業活動が活発化するとともに、国際的な経済活動に対する課税、すなわち国際課税の重要性が高まっている。日本の法人所得に関する国際課税制度は、2008年以前は全世界所得課税方式を採用していた。全世界所得課税方式とは、日本企業の国内所得のみならず、子会社や支店を通して海外で稼得した所得に対しても日本の法人税を課すという課税方式である。ただし、二重課税を避けるため、国外で納めた税額は国内の法人税額から控除されていた。また原則として、海外子会社の利益は国内の親会社のもとに引き戻されるまでは、日本の法人税が課されないという特徴があった。一方、米国を除く多くのOECD加盟国は、海外で稼得した所得に対して自国の法人税を課さない国外所得免除方式を採用している。

  全世界所得課税方式の下では、海外子会社の利益を日本へと送金すると、日本で追加的に法人税を支払わなければならないため、日本の多国籍企業は、海外で得た利益を過度に国外に留保し、国内に還流させない傾向があった。そこで、海外利益の国内還流に際しての税制上の障害を取り除くため、2009年度税制改正において内国法人が海外子会社から受け取る配当金を一定の条件のもとで非課税(益金不算入)とした(外国子会社配当益金不算入制度と呼ばれている)。この結果、日本の国際課税制度は全世界所得課税方式から国外所得免除方式へと部分的に移行した。

 本研究では、2009年度税制改正における国外所得免除方式への移行が、日本の多国籍企業の経済活動にどのような影響を与えたのか、企業レベルのマイクロデータを用いて実証的に分析する。この制度変更の主要な目的の一つは、海外利益の国内への還流を促すことであった。また、利益還流に際しての税制の障害を取り除くことで、日本企業の国際競争力の向上に繋がることも期待されていた。その一方で、海外所得が投資先国でのみ課税されることになるため、日本から低税率の国へと企業流出が進むことや、親会社・子会社間の取引を利用して日本から低税率国へと所得を移転させる租税回避行動に拍車がかかることが懸念されている。このような制度変更の目的や問題点を考慮して、本研究では日本の国外所得免除方式の導入が(1)海外子会社から親会社への配当送金に与えた影響、(2)日本の多国籍企業の企業価値に与えた影響、および(3)多国籍企業の海外直接投資行動への影響の三点に焦点を当てて分析を行う。