28.  テト雑感

ベトナムでは23日はテト(旧正月)の元旦でした。そしてその前後は休みです。ベトナムは比較的祝日が少ない国なので、皆がまとめて休むのはテトくらい。それもあり、テトの前は2週間くらい前からなんとなく祝日ムード。何か仕事の話をしても、ニコニコしながら「テトの後にね」といわれる。そして、テトの後はあまり店もやっておらず、基本的に皆は家族と過ごすか、親せきや友人周り。昔の日本もこのような感じであっただろうか。それにしても、ハノイの町からオートバイが消えるのは、テトの数日だけではないだろうか。

テトの前には皆、金柑の木や、桃の花を買う。これらの木の鉢植えを運ぶバイクはテトの風物だろう。テトの前は渋滞がひどく、さらに出不精になる私でも、木がバイクで行きかう師走という感じの雰囲気は嫌いではない。よくあんなに大きなものを運べると感心してしまう。金柑の木は、その黄色い実がお金に近いところから、縁起がいい金のなる木として飾るようだ。ベトナム人の奥さんをもつ日本人の友人によると、テトの際によくある会話は、「あらー、この木、いいわねー。いくらだった?」といったものらしい。日本では正月飾りの値段などをいちいち聞くことはないであろうが、どこまでも現実的なベトナム人である。まあもっとも、日本でもお正月にセンリョウ(千両)を飾るが。

もちろん、お金のことばかり考えているベトナム人ばかりではない。テトの前に昔住んでいたローカルアパートの大家さんに会いに行ったのだが、考えてみれば彼女は私が住んでいた3年の間、一度も家賃を上げたいと言ったことがない。メイドさんたちも厳しく教育していた。いろいろな要望に対する反応も速かった(時にその場しのぎの修理なども多かったのだが)。「あなたがいろいろと要望を出してくれて部屋を改良したから、人気のある部屋になったわ」とまで言う。そして、得たもうけを不動産や株につぎ込むのでなく、子供への投資に使っているのも好ましい。大家さんには息子が2人いるが、ひとりは韓国へ、もうひとりはオーストラリアへ留学している。

話がそれたが、そんなわけで、交通事情がとても悪くなる以外はテトの雰囲気も悪くはない。現在勤務する大学の先生たちは意外とまじめであまり羽目を外さないが、テト前のパーティーだけは飲んで大騒ぎをする。普段不満を感じていても、満面の笑みで酒を酌み交わされると思わず許してしまう。うーん、これも元アメリカ国務長官のキッシンジャーが称したように「生まれながらの外交官」であるしたたかなベトナム人の戦略だろうか。 

そういえば、前にベトナム語を1カ月くらい習い挫折したことがあるのだが、数年間はその時の先生から「次はいつ始めるの?」と聞かれていた。「うん、まあ今は忙しいから、テトの後にね」と毎年言った。「テトの後」を何回くらい使っただろうか。まあ、テトは毎年来るので、いつのテトとは言っていないしね(笑)。

20112月)

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