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リサーチ・プロジェクト

2015/6/24 ~ 2016/3/31

文化政策学における国際研究ネットワークの展開と論点に関する研究-規範的理論研究と実践的政策研究の接合に着目して-

研究代表者
  • 志村聖子研究助手

本研究は、文化政策学が直面する「規範的理論研究」と「実践的政策研究」の接合という課題に対して、特に欧州の文化政策研究に関わる国際研究ネットワークにおける議論の集積と推移に着目し、各ネットワークにおいてこの点の議論がどのように扱われ、発展してきたかを明らかにした上で、日本における規範的理論研究の位置づけ及び今後の方向性の導出に向けた分析を行うことによって、文化政策学における政策志向型研究の発展及びプレゼンスの向上に貢献しようとするものである。

文化政策学は文化芸術という抽象的かつ多義的な概念を扱う公共政策学の一領域であるが、文化芸術の価値や文化芸術に対する公的支援の根拠等を扱う「規範的理論的研究」と、実際の政策分析等に関わる実践的な「公共政策研究」との間には乖離が生じがちであることが指摘されている。この二つをどのように接合させ、バランスを取っていくかはこの学問領域にとり大きな課題といえるが、この点に関する議論は日本においてまだ多くなされていないのが現状である。

それでは国際的な場面における文化政策学研究において、この点に関する議論はどのように集積しているのだろうか。本研究は、1970年代以降、欧州各地を中心に文化政策領域において設立され活動を展開してきた国際的研究ネットワークにおける議論に着目する。欧州においては、1970年代にフランスやスウェーデンを中心として、自国の文化政策研究を超えた国際比較研究への関心が高まって以降、欧州全体の文化政策を対象とする研究所や国際学会、財団など、国際研究ネットワークが各所で立ち上げられ、文化政策研究における国際連携の動きが多く見られるようになっている。これらのネットワークは、大きく①UNESCOや欧州評議会など国際機関による支援を受けるもの、②各国政府による公的支援を受けるもの、③国際学会など研究者を主体とする任意団体、④電子ネットワーク、⑤その他に分けることができ、その設立の経緯や規模は様々であるものの、文化政策における関心領域や研究手法のあり方等について議論する場を提供するという意味で一定の役割を担い、文化政策研究の発展を支えてきたと言うことができる。

このような国際研究が増えた背景には、欧州評議会など助成機関側の要請が強く働いたことも指摘されている一方で、多くの研究者の関心領域はむしろ文化政策学が扱う文化とは何かといった規範的研究の充実にあり、いわば文化政策学は外からの圧力によって政策志向型の研究に舵取りがなされたという見方をすることもできる。その結果、規範研究は充実してきたものの、政策研究については「総花的アプローチが多い」「小手先のデータ集計に終始している」といった批判がなされ、政策研究を質的にいかに向上させるか、規範研究と政策研究をどう接合するか、そして学術研究を実際の政策にどのようにリンクさせ、実践に結びつけていくのかが課題として指摘されるようになっている。

本研究は、文化政策研究に関わる国際研究ネットワークの中から代表的なものを抽出し、規範研究と政策研究の接合に関する議論の推移を辿り、この論点が各ネットワークにおいてどのように扱われてきたかを明らかにする。その上で、日本における規範的理論研究の位置づけに関する論考及び今後の方向性の導出に向けた考察を加えることにより、文化政策学における政策志向型研究の更なる発展及びプレゼンスの向上に貢献しようとするものである。