ニュース・イベント

ニュース・イベント

ニュースアーカイブ

2016.1.18

第120回GRIPSフォーラムにて奥谷禮子氏による講演が行われました。

okutaninaka

 

何故? 女性の社会進出は進まないのか。

(取材・文責:企画室広報担当)

日本政府は社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする目標を、2010年に掲げた。しかし、日本の女性の社会進出は、男女雇用機会均等法が制定されてから30年以上経つ今も、遅々として進んでおらず、官・民・個人でその打開策を巡って侃々諤々の議論が交わされてきた。1月18日(月)、本学で開催された第120回GRIPSフォーラムでは、株式会社ザ・アール会長の奥谷禮子氏を講演者に迎え、この日本にとって喫緊の課題について、本質的な原因に迫った。

 

何故? 女性の社会進出は進まないのか。奥谷氏は、国の政策、企業(男性社会)、女性自身、それぞれの行動がお互いに矛盾を生み、女性の社会進出を阻む現実があると考える。例えば、「103万円の壁」の問題。サラリーマンの主婦の場合、年収がこの金額を超えると、所得税負担が増えるばかりでなく夫の扶養から外れることになり、更に130万円を超えると保険料支払いが必要となる。すると女性にとって家計を維持する一番の良策は、「ほどほどに働く」ということになる。奥谷氏によれば、専業主婦を優遇するこうした国の政策が、女性が社会進出することを阻む一つの原因となっているという。また、国の政策だけではなく、企業側にも女性の意識を低下させる要因があるという。未だに日本では、「初の女性○○」などと取り沙汰されることからも、男性中心のビジネス界における女性の台頭が特別視される傾向がある。奥谷氏は、女性自身がビジネス界においては性差を超えた個人能力の競争下にいることを肝に銘じなければならないと訴える。

 

奥谷氏は、その時代の産業構造を反映する女性の役割の変容を分析する。戦前、農業中心の産業構造において、女性の役割は、労働力としての子供を生みまた一緒に働くというものであった。その後は、戦時中~高度成長期にかけて「女性は家庭を守り、男性が働きに出る」という性差による役割分業が生まれたが、その分業は、現在、企業のコスト削減とサービス業優勢の産業構造において既に破綻しているという。更に、IT化とグローバル化により、勤務時間や場所を固定化しない多様な働き方を容認せざるを得なくなっている。しかし現実は、大半の企業が長時間労働、終身雇用、企業内訓練、などといった古くからの労働慣行を未だに採用しており、女性も男性と同じような働き方を求められる。結果、出産・育児・介護等で長期にわたって一つの企業で働くことができない女性は、自身の能力開発の機会を失う。さらに、日本の労働市場では、労働者が自分の能力を高く売り別の企業に移るという働き方の自由が根付かない。奥谷氏は、終身雇用を基本とする企業文化が変わらない限り、女性の社会進出も、労働力の流動化も進まないという。

 

また奥谷氏は諸外国の例を挙げ、外国人労働者の受入れが、国内女性の社会進出を促進する可能性について言及した。今後日本で深刻化する労働人口減少の側面からも、海外人材が日本で働くことができる基盤を整備することは国の政策にとって急務であるという。また、働き手が男性のみならず、女性、外国人、と多様化することによって、それぞれの職業による格差の是正もまた今後の課題になるので、是非聴衆に考えてもらいたいと提案した。

 

奥谷氏が仲間6人と人材関連会社を立ち上げたのは昭和57年のこと。当時アメリカに普及していたような多様な働き方を認める雇用ビジネスを参考にし、日本の女性の雇用を増やそうと野心に燃えていた一人の女性が直面したのは、昭和22年に制定されたまま変わらない労働基準法によって、数々の制約を受ける現実だった。経営者悪を取り締まるために作られた古い法律は、奥谷氏が展望する会社のあり方と余りにも矛盾するものであった。法律や規則は、その時代背景と発想を基に作られる。現在、いくつかの先進的な企業では、フレックス、時短、在宅ワーク、などの制度を採用し始めているが、例えば在宅時の労災問題などに対応する法律が追いついていない等の実情も散見される、と奥谷氏は指摘する。

 

そうした矛盾の中で、個人として出来ることは何であろうか。会場からも男女問わず多くの質疑が寄せられた。「「イクメン」になりたくても、会社がそれを許してくれない。」そうした声も参加者から挙がった。また、「女性ではなく、男性側の意識を変えるほうが重要だ。」という主張も挙がる。奥谷氏は、女性の主張を男性に訴えるためには、男性社会の文化や作法を学んだ上で、性差を越えた実績を作ることが不可欠だと強調する。最後に、参加者に向けてこうメッセージを贈った。「例えば官僚になる方であれば、この法律を変えることでこうした社会を実現するのだという使命感を持ち、そこにどう情熱を傾けるか。政策やビジネスを通じて、社会変革が出来る。そうした信念・信条を持って仕事をすることが大切です。」

 

〒106-8677 東京都港区六本木7-22-1

TEL : 03-6439-6000     FAX : 03-6439-6010

PAGE TOP

Print Out

~