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Inquiry into the Development of the Science Parks and Business Incubators in China(中国のサイエンスパークとビジネスインキュベーターの発展に関する研究)

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: Zhang Haiyang
学位名: 博士(開発経済学)
授与年月日: 2009年9月30日
論文名: Inquiry into the Development of the Science Parks and Business Incubators in China(中国のサイエンスパークとビジネスインキュベーターの発展に関する研究)
主査: 園部哲史教授
論文審査委員: 大塚啓二郎教授
山野峰教授
戸堂康之准教授(東京大学)
大山達雄教授

I. 論文内容要旨
 サイエンスパークやビジネスインキュベーターの振興を通じて、科学技術の研究やハイテク産業を振興しようという試みは、先進国のみならず途上国でも行われてきた。たとえば中国では1980年代後半からサイエンスパークの建設に乗り出し、新しい技術を開発しようという企業や、先進的な技術を使う企業をサイエンスパークに立地させ、これらの企業にビジネスインキュベーターのサービスを提供し、さまざまな優遇措置を施してきた。中国のサイエンスパークやインキュベーターのシステムに関心を抱く途上国政府は多い。ところが、途上国におけるサイエンスパークやビジネスインキュベーターの実態や有効性に関して、経済学の観点から実証的に分析しようという研究はこれまでほとんど行われていない。本研究は中国のデータを用いて、これらの問題に迫る新しい試みである。
 序章と第2章では、歴史的経緯や制度の概要を短くまとめ、関連する経済学の概念や実証研究の結果を整理し、実証的な分析を必要とする問題を大きく分けて2つ提起する。まず、企業が集中立地することによって生じると言われるメリット、すなわち集積の経済が、中国のサイエンスパークではあまり醸し出されていないのではないか、むしろサイエンスパークへの企業の集中立地は混雑という集積の不経済を生んでいるのではないかという問題である。これを解明することが第3章の課題である。
 もうひとつは、ビジネスインキュベーターが生ま れたばかりの企業に提供するサービスの質と量は、科学技術研究やハイテク産業を振興しようという政府の目標に照らして、程よい水準になっているのかという問題である。そもそもこうした問題が生じると考えられるのは、インキュベーターのサービスの質と量を政府が測定してインキュベーターをコントロールするのが難しいからであるが、測定の難しさは実証研究も難しくする。難しいが、少しでもこの問題に光を当てようというのが、第4章の課題である。
 こうした課題に取り組むには、企業レベルのデータを用いることが望ましい。しかし、ハイテク企業は管轄の官庁によって厳しく管理されていて、個々の企業のデー タは公表されていないし、自ら調査を行ってデータを収集することも実際上不可能である。そのため本研究は次善の策として、官庁がデータを収集して編纂した統計資料を用いている。サイエンスパーク内の企業群とパーク外の企業群の間で、企業規模や労働生産性の決定要因がいかに異なるかを比較したり、インキュベーターのタイプを官営のものと大学が経営するものとに分けて比較したりするなどの工夫を施し、利用可能なデータを総動員して分析を行っている。
  第3章の分析によれば、サイエンスパークでは集積の経済を集積の不経済が凌駕している。そのため、パーク内に留める企業とパーク外に出すべき企業の選別を 強めて混雑を解消すれば、生産性の向上が期待できる。およその数字であるが、サイエンスパーク内の企業数を10パーセント減らせば、残った企業の生産性は3パーセント向上すると予想される。第4章の分析は、インキュベーターがより多くの企業を輩出することに汲々としていて、より実力のある企業を育てようとはしていないことを示唆している。
 本研究の要旨は以上のとおりである。8月中旬に、第3章をジャーナル論文のスタイルに書き直したものをResearch Policy誌に投稿した。第4章も書き直して国際的な学術雑誌に近々投稿する予定である。
 

II. 審査結果報告
平成21年7月28日(火)に行われた発表会に引き続き、同日午後3時から審査委員会が開催された。審査委員は主査の園部哲史教授、副査の大山達雄教授、大塚啓二郎教授、山野峰教授、戸堂准教授(東京大学)の5名によって構成された。 審査委員会は、本研究が興味深いかつ経済学では新しいテーマに取り組んでいる点、丁寧で質の高い分析をしている点、政策含意の明確な分析結果を得ている点 を高く評価した。各委員による5段階評価の平均点は4.3点であった。ただし審査委員会は、次の諸点に関して改善の余地があることも指摘した。
 
サイエンスパーク内の企業への外国企業による直接投資や、近隣の大学からの影響について、より慎重な検討があってよい。
仮説1.2や1.3の文章は表現が断定的に過ぎる。表1.2の説明は不足気味である。
労働生産性を被説明変数とした回帰分析と、雇用規模や企業数を被説明変数とした回帰分析ではだいぶ異なる定式化が用いられているが、その理由の説明が不足している。
サイエンスパークやビジネスインキュベーターの制度や発展の経緯について、より詳細な記述がほしい。
 
著者はこれらの点を改善した修正稿を提出し、主査の最終確認を経て博士論文の最終版として提出した。審査委員全員は、本論文が本学博士論文として妥当であるとの結論に達した。

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