学生の方

Irrigation Management in the Doho Rice Scheme in Uganda: An Inquiry into the Potential of a Green Revolution in Sub-Saharan Africa(ウガンダのドホ稲作灌漑における水管理:サブサハラにおける緑の革命の可能性についての一考察)

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: 中野 優子
学位名: 博士(開発経済学)
授与年月日: 2009年9月2日
論文名: Irrigation Management in the Doho Rice Scheme in Uganda: An Inquiry into the Potential of a Green Revolution in Sub-Saharan Africa(ウガンダのドホ稲作灌漑における水管理:サブサハラにおける緑の革命の可能性についての一考察)
主査: 大塚啓二郎教授
論文審査委員: 山野峰教授
加治佐敬教授
和田義郎教授
菊池眞夫教授(千葉大学)

I. 論文内容要旨
 サブサハラ以南のアフリカ(SSA)においては、急速な人口増加により一人当たりの耕地 面積が減少する一方で、面積当たりの収量は停滞しており、食糧不足が深刻化しつつある。これを解決するためには、土地節約型の技術進歩が肝要であり、それ が貧困削減のための必須条件になりつつある。そうした技術進歩の代表的な例は、アジアの緑の革命である。そこでは、灌漑地帯を中心にして肥料感応型の高収 量の水稲品種の普及が決定的に重要な役割を果たした。最近はSSAにおいても水稲は有望視されつつあり、中でも灌漑の貢献が期待されている。しかしこれま でSSAで主流であった大規模灌漑の管理については、公的部門による管理が失敗を重ねてきたという経緯から、共同体(Community)の役割が注目されつつある。
 以上の論点に鑑み、この研究には2つの大きな目的がある。第一は、共同体による灌漑管理が成功する条件を探求することである。第二は、緑の革命の可能性とその制約条件を明らかにすることである。これらの点を解明するために、ウガンダのドホ稲作灌漑地帯において独自にデータを収集し、実証研究を行った。ドホは大規模な灌漑システムであり、その管理は現在では農民の自発的な組織に委ねられている。 
 灌漑の管理の実態を究明するために、本研究では個別家計の灌漑設備管理への貢献の決定因を究明するとともに、管理の結果としての灌漑水のアベラビリティについても検証を行った。実証研究の結果によれば、第一次の主水路や第二次の水路と、水田に直接灌漑水を配分する第三次水路の管理とでは農民の行動は異なる。すなわち、自分が耕作する水田と同一の第三次水路内に血縁関係のある農家がいる農民ほど、この水路の清掃に熱心であることが分かった。他方、こうした関係は第一次や第二次の水路の清掃には見られない。
 灌漑水のアベラビリティを決定する関数の推計結果によれば、第三次水路が充分に掃除されていれば、取水口から離れていても灌漑 水のアベラビリティはほとんど減少しないことが明らかになった。この結果は、灌漑水の効率的な利用のためには第三次水路の清掃についての「集団行為」が決定的に重要であることを示すものである。以上のような実証的ファインディングは、第三次水路では社会的制裁や相互監視をともなう「共同体的メカニズム」が機能していることを強く示唆するものであ る。したがって、第三次の水路の管理については、上流と下流の農民の間の関係を考慮に入れた灌漑管理システムがデザインされてしかるべきである。しかし、 第一次や第二次の水路の管理には「共同体メカニズム」が機能している兆候はなく、水路の清掃のための労働の提供や灌漑水使用料の支払いを含めて、厳格な社 会的ルールの設定と実施が望まれる。
 次に、灌漑水の経済的価値について試算を行った。それによれば、開花期に供給される水の深さが1センチメートル上昇すると、1ヘクタール当たりの収量が350kg増加し、利潤はUS$82.3増加することがわかった。これを第三次水路の丁寧な清掃によって実現す れば、ドホ全体ではUS$29,400という莫大な利潤増加が見込まれることになる。つまり潜在的には、農民の間の協力が莫大な利益を生むことが明らかに なった。
 さらにこの研究では、緑の革命の可能性と制約条件を検討するために、現在のドホ灌漑稲作水田の現状と他のアフリカやアジアの灌漑稲作の状 況を比較検討した。それによれば、ドホでは化学肥料の投下が極端に少ないことが、緑の革命を実現しえていない制約条件になっていることが分かった。これにはいくつかの理由が考えられる。一つは、ドホでは化学肥料の価格が極端に高いことである。第二には、肥料に充分に感応的な品種が利用可能ではないことである。そして最後に、灌漑システムの集団管理が効率的に機能していないために、灌漑水の配分と利用が非効率であることがあげられる。
 最後に、灌漑水稲生産が貧困削減に与える影響について検討を加えた。それによれば、土地あたりの所得は灌漑水稲生産と畑作物の生産とでは隔絶した格差があることが明らかになった。このことは、灌漑水稲生産が貧困削減に多大な貢献をなしうることを示している。結論すれば、アジアと同じように試験研究投資による技術開発と灌漑の集団管理がうまく車の両輪として機能すれば、SSAでも緑の革命の実現による収量の増大、所得の向上、貧困削減という正の連鎖が生み出される可能性は 高いということになろう。 
 
II. 審査結果報告
 本論文の最終報告に引き続き、平成21 年7月15日(水)11時半ころより審査委員会が開催された。審査委員は大塚啓二郎教授(主査)、山野峰教授(副査)、和田義郎教授(副査)、菊池真夫教授(千葉大学)、加治佐敬准教授(副査)の5名であったが、 加治佐准教授は海外出張中のため書面審査の結果を提出することで審査に加わった。
 非常に重要な問題ではあるが、データ収集が困難なためにこれまで研究されてこなかった課題に積極的に挑戦したことがまず評価された。事実、アフリカの大規模 灌漑の管理について家計データを用いて厳密な研究を行ったのは、評者の知る限り、本研究が初めてであろう。また論文の構成が適切であることでも審査委員の 間で合意が得られた。その一方で、画期的なファインディングにやや乏しいことも指摘された。
論文の具体的な充分に問題点として以下の点が指摘された。
 
表3.7の「水深」の決定因に関する回帰式の係数の意味が不明確である。
第3章の Policy Implicationsが明快に述べられていない。
共同体的関係の重要性と血縁関係の重要性が明確に区別されていない。
第4章の分析で、第3次水路が清掃された場合の社会的利益を大まかにでも計測すべきである。
 
上記のコメントに対して、著者は直ちに論文の修正を行い、修正稿を提出し、主査の最終確認を経た上で博士論文最終版として提出した。各審査委員の了解は得られており、これをもって審査委員全員が本論文を本学博士論文として妥当であると結論つけたことになる。 

〒106-8677 東京都港区六本木7-22-1

TEL : 03-6439-6000     FAX : 03-6439-6010

PAGE TOP

Print Out

~