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三位一体の改革における義務教育費国庫負担制度

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: 大類 由紀子
学位名: 博士(政策研究)
授与年月日: 2012年3月21日
論文名: 三位一体の改革における義務教育費国庫負担制度
主査: 飯尾潤
論文審査委員: 竹中 治堅
大山達雄
大杉覚(首都大学東京)

Ⅰ.論文要旨

 

 本論文は、小泉内閣において行われた、地方財政に関するいわゆる「三位一体」の改革に関して、具体的な補助金改革などの内容が、どのように決定され たのか、政策過程を丁寧にたどり、類似の改革との比較をふまえ、制度的な要素が改革の具体的な結果に大きな影響を与えたことを、実証的に示した事例研研究 である。 
 まず、第1章「分析の視座」では、分析の目的および、分析対象、分析の手法について説明している。そこでは「三位一体の改革」における具体的な補助金改革、とりわけ8500億円の削減という結果になった義務教育費国庫負担金制度の改革が分析の対象とされ、実態の解明のほか、関連するアクターの関係だけではなく、制度がもつ特性がアクターの相互交渉に影響を与える側面を摘出することが、分析の目的とされる。そして、分析手法として、制度論の枠組みの上で具体的な調整過程を描き出すとともに、類似の改革との比較のなかで、その意味を検討するとされた。 
 第2章「財政調整制度の連 結関係」では、分析の対象となる制度のあり方が説明されている。そこでは、日本における国と地方の財源配分における財政調整制度の諸原則とともに、全体像 が整理されたうえで、それを構成する国庫補助負担金、地方交付税、地方税のそれぞれの具体的なあり方が説明される。また、そうした制度を前提としたとき に、関係するアクターが持つ選好が示される。そのうえで、財政調整制度における各制度の連結性についての解説がなされ、以下の記述の背景となる制度的配置 が説明される。 
 以後の4章は、具体的な記述の章であるが、まず第3章「財政再建期の国庫補助負担金制度改革」では、比較対象として、第二臨調 以降の1980年代における国庫補助金削減の過程が記述され、その特徴として、一律削減など総枠設定、高率補助率の引き下げなどの手法がとられたことが示される。 
 第4章「地方分権期の国庫補助負担金制度改革」では、引き続く1990年代後半における地方分権推進委員会による分権改革に際しての、庫補助負担金の改革について、国庫補助金と国庫負担金の区別に対応した対応がとられたことなどが紹介される。 
  そして、第5章「財政再建・地方分権期の国庫補助負担金制度改革Ⅰ(全体像の決定)」においては、小泉内閣が発足してから、次第に財政に関する地方分権改 革が始動し、2002年の「片山プラン」の発表から、2003年の国庫補助負担金改革等を明示した総理指示に基づく基本方針2003によって、一挙に三位 一体の改革が具体化し、その年の11月には知事会の動きを小泉総理が重視して、国庫補助負担金改革が加速した経緯が記述されている。 
 続く、第 6章「財政再建・地方分権期の国庫補助負担金制度改革Ⅱ(具体策の決定)」では、その後の展開として、2004年に国庫補助負担金改革の具体策が決定され る過程を追い、税源移譲額を3兆円規模とすることを打ち出した「麻生プラン」から、地方6団体を巻き込みながら、関係省庁の間で国庫補助負担金改革の具体 策についての調整が続いたことが記述され、2005年には前年に決着しなかった問題がそれぞれ決着していく過程で、義務教育費についても、中央教育審議会 案と地方案を折衷する形で決着し、大幅な削減が決定された過程が記述される。 
 第7章「財政再建・地方分権期の国庫補助負担金制度改革の特徴」 では、これまでの記述をふまえ、前の二つの時期の改革と比較しながら、三位一体の改革の特徴について、まず改革の目的・進め方について、各アクターの選好 と意見の違いが整理される。そして、次に国庫補助負担金改革の総論的な論点が整理され、各論として義務教育費国庫負担金や、生活保護費、公共事業費などそ れぞれの制度における事情が解説される。そして、関連する税源移譲や地方交付税制度改革についても同様に、財務省と総務省の選好の違いを軸に、そこで展開 する基本的な力学が説明される。そのうえで、3つの時期の改革における調整過程が比較され、三位一体改革における小泉総理の主導性や、内閣官房長官、財務 大臣、総務大臣、経済財政担当大臣による四大臣会合が大きな方向性については決定的な意味を持ちながら、具体的な改革案づくりについては関係の省庁や地方 六団体などの検討に委ねられたことが示される。そうして、そうした際には、関係の制度が持つ特質が、最終決定を大きく制約し、また改革の手順や、検討の順 序などが大きな意味を持つことが示された。

 

Ⅱ.審査報告 
 平成24年2月9日(木)の博士論文最終報告に引き続き、主査である飯尾潤教授、副査である大山達雄教授、竹中治堅教授、大杉覚教授(首都大学東京)による審査委員会が開かれた。この際、本論文について、次のような意見が出された。

 

  1. これまで全体を概括的な分析が中心であった地方財政に関する三位一体の改革について、その政策過程に関して詳細な分析を行ったものであり、とりわけ国庫補助金の具体的な取り扱いについて精緻な分析を行っているのは、高く評価できる。 

  2. 三位一体の改革において、国庫補助金や地方交付税などの制度的な条件によって、具体的な政策内容が規定されていることを、具体的に示しえたことは大きな成果である。 

  3. ただ、分析対象が拡散している印象があるので、三位一体の改革と国庫補助金制度の改革の連関について、分析の視座を整理して示すべきである。 

  4. 分析の枠組みに関して、制度論による分析と調整に関わるモデルとの関係が混在してわかりにくい面があるので、この点について理論的な整理が必要である。 

  5. 省庁間の制度的関係が分析の主眼となるとしても、政治システムの変化について言及すべきである。 

  6. 研究の前提となっているようだが、明示されていない三位一体の改革に関する文部科学省の戦略について、整理して記述した方がよい。 

  7. 題名をより内容に即した具体的なものにすることと、「はじめに」や「おわりに」を本文の内容を反映したものにするとともに、長すぎる部分を整理し、誤字・脱字を訂正するなどなど、体裁を整えるべきである。

 

 全体として、事例研究として本学の博士にふさわしい論文であると全員の意見が一致し、上記で指摘された諸点について修正したうえで、博士(政策研 究)= Doctor of Policy Studies の学位を授与すべきであるという判断が下された。論文修正後の措置に関して、各審査委員が最終版について承認し、修正した最終版が提出されたことを主査が 確認した。

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