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Challenges of Hydrological Analysis for Water Resources Development in Semi-Arid Mountainous Regions: A Case Study in Iran

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: 菱沼 志朗
学位名: 博士(防災学)
授与年月日: 2013年9月4日
論文名: Challenges of Hydrological Analysis for Water Resources Development in Semi-Arid Mountainous Regions: A Case Study in Iran
主査: 竹内邦良
論文審査委員: 森地茂、佐山敬洋、馬籠純、安藤尚一、椎葉充晴(流出予測研究所長)、園部哲史

論文要旨

 世界の陸地の相当部分を占める乾燥・半乾燥域国では、人口増、経済発展圧力の下、多くの国で活発な国土開発が進められている。その基本は水資源開発である。特に山岳地帯に積雪資源を持つ乾燥地帯にあっては、融雪による地表水並びに地下水の開発が中核である。イランはそのような乾燥国の代表であり、豊かな包蔵水力を持つカルン川流域はさらにその代表である。この地域はまた気候変化が大きく、その影響が懸念されている。

本論文はこのようなイラン国カルン川流域を対象として、半乾燥山岳地帯の水資源開発に必要な水文解析が直面する諸課題を、また気候変化の影響を検討し、開発推進上の政策課題を、水文学的解析に基づいて明らかにしたものである。

研究は以下の基本戦略の下に進められた。

1.複雑な気象水文過程を持つにもかかわらず、地上観測データが乏しいという困難な問題を抱える半乾燥山岳地域にあって、複雑かつ高度な水資源システムを計画・運用するのに必要な水文解析が可能な、実用性の高い水文モデルを選択する。

2.選択されたモデルの、乾燥流域への適用性をさらに高めるため、必要なモデル改良を行う。

3.選択されたモデルにより、Karun川流域の2か所のダムKarun1およびDez地点において流出シミュレーションを行い、その適応可能性と問題点を、流出の基本特性(年流出、季節流出、洪水、低水)の再現性から明らかにする。

4.その過程を通じ、半乾燥山岳域の水開発に必要な政策課題を明らかにする。

5.気候変化の影響を評価するため、3つの超高解像度全球大気モデル(MRI-AGCM 3.1S, 3.2S, 3.2H)のデータセットを用いて、現在(1979-2003)、近未来(2015-2039)、今世紀末(2075-2099)のシミュレーションを行う。

この結果以下のような研究結果が得られた。

1. 地上観測データ不足流域で高度な水文解析に堪えるモデルとしては、BTOPMC(広域対応TOPモデル+Muskinghum-Cunge河道追跡モデル)が適当であり、十分な適応可能性を持つことが示された。

2. BTOPMCの地表面浸透過程の改良を行い、乾燥域の洪水流出の再現性能を大幅に改善した。

3. Karun川流域では降水観測所の設置位置にばらつきが多く、数千km2にわたって観測所のないところも多い。そのことが、高度な水文モデルの適用性能を大きく損ねる。

4. Karun川流域の気候変化影響は、将来の温室効果ガス排出量シナリオA1B(すべてのエネルギー源のバランスを重視しつつ高い経済成長を実現する社会)においてMRI-AGCMが予測する降水と気温データを用いた水文解析によると、2か所のダム地点で年間のピークに近い5月の月流出量では、現在と比較して近未来で約30%、今世紀末では約60%減少することが示された。

以上のような解析から、以下のような政策提言が結論された。

1. 科学的知見の成果である、高度な水文モデルの利用のためには、それにふさわしい地上観測が不可欠である。

2. 半乾燥山岳域のような、気象条件の変化の激しいところでは、開発計画に先立って地上水文観測に十分な先行投資を行うべきである。

3. Karun川流域の気候変化影響は極めて大きく、数十年先に向けた適応計画を、余裕をもって実施する必要がある。

本研究の成果はすでに、二つの査読付き国際誌に発表ないし投稿されている。

 

 

II.  審査結果報告

平成25年7月29日(月)10:00-11:40本論文の最終発表会が行われ、それに引き続き、11:45-12:15審査委員会が開催された。審査委員は竹内邦良連携教授(主査)、森地茂教授(副査)、佐山敬洋連携准教授(副査)、馬籠純非常勤講師(副査)、安藤尚一教授(副査)、椎葉充晴流出予測研究所長(副査)、園部哲史教授(副査)の7名であった。

審査結果の結論は、データの限られた地域での水文解析、また気候変化の大きい地域の影響評価と言う困難かつ重要な課題に取り組み、明快な論理と構成で、貴重な成果を上げ、有用な政策提言を行った。学位論文として十分の内容であるとの評価であった。その上で、8月末の論文の最終提出までに、以下のような点を参考に、さらなる論文推敲が望ましいとの指摘があった。

 

1.主要目的であるClimate changeが定性的にどのような現象であるかを説明した上で、そのうちどの部分をどのようなモデルの中に取り込まれているかを、もう少し詳しく説明することが望ましい。

2.データ収集に関するプライオリティの説明、Infiltration capacityの係数Aの求め方の追加が望ましい。

3.形式的な点で、

1) Referenceと文章中の引用の確認。例:p8の(FAO 2003)のReference。

2) BTOPMCのfull nameの明示。

3) List of figures中の略号の解説のダブリ。

4) 論文発表スライドで使った図には、論文中に加えるとよいものが多い。

4.説明や英語表現に改善の余地が多い。たとえば、

1) モデルの有用性に関する結論に、“best tool”など表現の強すぎるものがある。

2) 多目的ダムに関する政策提言は、本文中の分析との関連付けが必要。

5.図や文章の引用に当たっては、盗用にならないよう十分注意する必要がある。

 

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