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The Efficiency of Land Allocation through Tenancy Markets and Its Effects on Farm Performance in China

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: 木村 伸吾
学位名: 博士(国際開発研究)
授与年月日: 2007年4月25日
論文名: The Efficiency of Land Allocation through Tenancy Markets and Its Effects on Farm Performance in China
主査: 大塚啓二郎
論文審査委員: 山野峰
畠中薫里
Kaliappa Kalirajan
大山達雄
神門善久(明治学院大学経済学部教授)

I.論文内容要旨
 
 グローバル化した現在の世界においては、地域的な市場の変化が、世界全体の市場に影響を与える。特に中国のような巨大な経済の動向は、世界的な規模での変化を引き起こす。例えばもし中国において農業の比較優位が低下し、中国が穀物の大輸入国に転落すれば、世界的に穀物価格が上昇し、それは世界中の貧困者の食料の安全保障をゆるがすことになる。中国の平均農家規模はわずかに 0.5-0.6ヘクタールであり、大規模な機械化によって労働を大幅に節約できる状況にはない。他方で、中国では実質賃金が急速に上昇しており、生産費を抑制するためには経営の大規模化によって大型の機械を導入することが重要になろうとしている。つまり中国では、農地の流動化による農家規模の拡大が重要なイシューになりつつある。
 
 本研究は上述のような状況を踏まえつつ、中国の農地の貸借市場の効率性と、その生産性へのインパクトを、農家家計調査データを用いて解明しようとするものである。言うまでもなく中国では、土地の私的所有権が認められていないために土地の売買を行うことはできない。したがって、農家規模の拡大を実現するためには農地の貸借市場が機能しなければならない。本研究の目的は、農地の貸借市場の非効率性を数量的に検証するとともに、農地の貸借市場の非効率性のゆえに大規模経営では過度に粗放な経営が、小規模経営では過度に集約的な経営が行われていることを実証することにある。
 
 本研究が的確に指摘するように、中国では非農業部門の急速な発展のために都市・農村間の所得格差が拡大し、農村人口の都市への 移動が活発化している。この問題を解決するためには、都市への移住者が耕作していた土地の耕作権が、農業を継続しようとしている農民に速やかに移転されることが肝要である。それによってこそ農業経営の大規模化が実現し、かつ農業所得の増大が都市・農村間の所得格差の縮小に資することになる。そのためには土地の貸借市場が機能することが必須条件であり、本研究の意義はその現状を数量的に評価していることにある。
 
 本研究の第一の学術的貢献 は、生産関数や取引費用関数を2次関数によって近似しつつ、土地の最適貸借面積を決定する関数形を厳密に所得最大化モデルから導出したことにある。既存の 研究においては、土地の貸借を決定する関数形は理論に基づくことなくアドホックに仮定されていたが、本研究はそれを厳密化し、なおかつ既存の議論の誤り (例えば定数項が無視されていたこと)を指摘している。また多くの農家が貸借市場に全く参加していない実情を、土地貸借にともなう取引費用を明示的に考慮 することによって明快に説明している。以上の点は、第2章(Literature Review and Theoretical Framework)の骨子であり、土地の貸借に関する研究に対して重要な貢献をなすものであると言える。
 
 本研究の第二の貢献は、理論に基づいて導出された土地の貸借関数を、2000年に収集された中国の972軒の農家調査のデータを用いて実際に計測し、土地の貸借市場が農家間の土地・労働比率を均等化するようにはほとんど機能していないことを示したことにある。またその原因として、貸与する側は貸与によって土地の権利を喪失してしまう可能性があることをあげている。実証分析では、その可能性を過去に村の政府がどれくらい頻繁に土地の再配分を行ったかによって計測し、有意な結果を得ている。つまり、中国では土地に対する私的所有権が弱いために、土地の貸借市場が十分に機能していない可能性が高いことが示されたと言えよう。この点は第3章の主要なファインディングであるが、これを実証したことの意義はきわめて大きい。
 
 第三の貢献は、第4章において、農家規模と農家 のパフォーマンスの間にInverse Relationship があることを検証したことである。評者の知る限り、本研究が中国においてInverse Relationshipの存在を示した初の研究である。Inverse Relationshipはインドのように土地の貸借市場が政策的に抑圧されているような経済に存在しており、土地の貸借市場が活発に機能している東南ア ジアでは一般に見出されていない。第3章の分析結果によれば、労働が豊富で土地の少ない農家が思ったように土地を借りられず、労働が不足で土地が豊富な農 家が土地を貸すことに躊躇している。もしそうであるとすれば、第4章でInverse Relationshipが見出されたことと、第3章で土地の貸借市場の非効率性が検証されたことには整合性がある。
 
 政策的な含意として、中国では土地の所有権を強化することによって、土地の貸借市場の機能を改善すべきであることが指摘されている。
 

II 審査要旨
 
 4月2日(月)午前10時半から開催された博士論文発表会に引き続いて、大山達雄教授、畠中薫里准教授、カリアッパ・カリラジャン教授、山野峰准教授、神門善久明治学院大学教授、および大塚啓二郎(主査、教授)の6名からなる審査委員会が開かれ、学位請求論文に対して次の諸点の改善を求める意見が提起された。なお山野委員は発表会に出席できなかったために、4月7日午後2時より改めて論文発表を審査した。

  1. 農村には労働市場が存在しないという仮定がなされているが、これは仮定として強すぎる。説明を追加すべきである。

  2. モデルでは個別農家の需要関数や供給関数を導出しているのに、推定では市場全体に関係する説明変数が入っており、議論の整理が必要である。

  3. 理論面よりも実証面での貢献がより大きいと思うので、本研究の貢献の部分でこの点を明確にすべきである。

  4. DCAの推計に要素価格が含まれていない(特に小作料)ことは、説明を要する。

  5. Inverse Relationship の原因は土地市場の非効率性ばかりでなく、労働市場の非効率性も原因である。この点は追加的な説明が必要である。

  6. 報告では明快であったが、論文においては仮説が明示されていない。これは改善の必要がある。

  7. 家族労働と購入投入要素が補完的であるという議論があるが、これは回帰分析の結果と異なる。したがって、この主張は削除すべきである。

  8. 小規模農家のほうが生産性が高いことを実証しておきながら、結論で大規模化の重要性を強調することは矛盾するのではないか。問題は賃金の上昇とと もに最適経営規模が拡大したときに、土地貸借市場が規模拡大を促すように機能するか否かであり、そのことを明確に議論すべきである。

  9. 4章のタイトルは長いので、例えば副題を削除すべきである。

  10. Can be defined という表現は避けるべきである。

  11. 生産関数でConcavity を仮定しているが、これは決定的に重要な仮定なので、もう少し議論する必要があろう(例えば、Hayami and Otsuka (1993)を参照)。

  12. 推計結果のフィットがどれほど良好であるのか、議論すべきである。

  13. 最後の政策的含意に関する議論が、推定結果から得られる結論を超越している傾向がある。「将来の分析的課題」と政策的含意は峻別すべきである。

 

 なお、4章で他のFarm Performance Indicator を考慮すべきであるという指摘があったが、Profit を用いた分析も考慮しており、特に修正の必要はないと判断した。
  これらのコメントはついたが、各審査委員による5段階採点の平均値は4.48点であり、合格の基準となる4.0点を大きく上回った。よって理論および政策分析の双方において博士論文にふさわしい学問的業績であると考える。そこで、審査委員会は以上の諸点の改訂が確かに完了したという主査の判断をもって合格とすることを決議した。すなわち、審査委員会は本論文の査読及び発表会での報告と質疑応答のすべてに鑑みて、博士(国際開発研究)の学位を授与することが妥当であると結論する。

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