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Applying Mathematical Modeling Techniques for Improving Japan’s Food Self-Sufficiency Ratio(数理モデル分析手法の適用によるわが国の食料自給率改善戦略の作成)

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: Nguyen Huu Trung
学位名: 博士(社会システム分析)
授与年月日: 2010年12月15日
論文名: Applying Mathematical Modeling Techniques for Improving Japan’s Food Self-Sufficiency Ratio(数理モデル分析手法の適用によるわが国の食料自給率改善戦略の作成)
主査: 大山達雄教授
論文審査委員: 諸星穂積教授
畠中薫里准教授
吉井邦恒氏
伏見正則名誉教授(東京大学)

I. 論文内容要旨
 世界における食料貿易量が国際的な規模で拡大するととともに、食料輸入国においては 食料の海外依存度がますます高まるという傾向が見られる。開発途上国を中心として人口が増え続けるのに伴って、世界の食料需給状況に対して、多くの国民が 地球的な規模での資源制約、環境の悪化を懸念している。わが国の食料自給率は1965年度には73%であったのが1975年度には54%と10年間に 20%も大きく低下した。その後1985年頃までの約10年間はほぼ横ばい傾向をたどり、それ以降再び低下傾向をたどり、1993年度にはわが国の未曾有 の米の不作によって一時的に37%となったものの、1998年度には40%となりその後はほぼ40%で推移している。政府は食料自給率の低下傾向に歯止めを掛けるため、2000年3月に食料・農業・農村基本計画を策定し、食料消費及び生産の両面にわたる課題を解決した場合に実現可能な水準として、2010 年度にカロリーベースの食料自給率を45%とすることを定めた。食料自給率の低下が叫ばれる昨今、食料供給先を海外に大きく依存するわが国の将来の食料需 給をより安定的、効率的なものにする戦略を描くことは必須の政策課題である。このような問題に対して数理モデルを用いた分析例は著者らの知る限りではほとんどみられない。
 国民に対する食料の安定供給の確保は農業政策の最終的な目標であって、食料自給率を引き上げることは最優先すべき重要な政策課題 である。わが国の食料需給と食料自給率の推移を詳細に分析した上で、食料自給率の向上を図るための政策的な取組みについては、それぞれの食品目の国内生産 がわが国の食料自給率の向上にどの程度寄与しているのか、定量的な把握、分析が必要である。食料自給率(FSSR)の推移を詳細に分析した上で、食料供給 システムをネットワークフロー最適化モデルとして定式化し、食料自給率向上戦略の政策分析を行うことが本研究の目的である。
 本研究の意義はこのような重要政策課題を実証データに基づいて解決する手法を提供する点にある。本研究は大きく以下の3つにまとめられる。
(1)1961年から2005年にかけてのわが国のFSSRの推移を時系列特性、地域特性、国際比較といった側面、観点から詳細な定量的分析を行う。
(2)わが国のFSSRの変動の要因を各食品目別の消費量による変動と自給率による変動とに要因分解した上で変動要因分析(供給熱量変動分と自給率変動分)を行う。
(3)わが国の食料供給システムを食料フローネットワークとして捉えた上で数理モデルを構築し、多品種フロー最適化ネットワーク問題として定式化し、わが国の食料自給率改善戦略のための政策分析を行う。
上記(1)については、全期間を食品目別の消費量変動に基いて3つの期間に分割し、各期間ごとの特性分析を行った。またカロリーベースと金額ベースの FSSRに基づくわが国都道府県の特性を明らかにした。またFSSRの国際比較については、全期間にわたるOECD諸国の時系列的変動分析を行った。上記 (2)については、食品目別の消費量と自給率の積和として表された重量ベースのFSSRの変動を供給量変動分と自給率変動分とに要因分解した上で、それぞ れの要因に基づく貢献度を計測した結果、後者に基づく変動分が8割から9割を占めていることを明らかにした。また食品目別の変動貢献度も計測し、魚、海産 物、小麦、果物、野菜、等の自給率変動に基づく変動が特に大きいことを明らかにした。上記(3)については、構築した数理モデルが食品目別供給量、需要量 のいずれもが内生変数として扱われるモデルであること、そして分数型数理計画モデルであることが斬新であることが強調された。また最適基準解の分析から は、重量ベースのFSSRが基準年である2005年時点の53.25%から目標年の2015年には63.26%となり得ることが示された。また感度分析と して、わが国の食料の最終需要量が高、中、低という3つのシナリオに基づく計算、国内生産量、輸入量、穀類消費量に関するパラメトリック分析も行って、興 味ある結果を得た。
 本研究の成果はすでにいくつかの国際学会(INFORMS (2005), ISORA(2009), APORS (2010))そして国内学会(ORSJ(2008,2009))においても発表されている。また本研究の成果の一部はすでに論文とし て”Quantitative Data Analyses for the Recent Change of the Japanese Food Self-Sufficiency Ratios”, Operations Research and Its Applications, Lecture Notes in Operations Research 8, 8th International Symposium on Operations Research and Its Applications (ISORA’09), 2009, pp.372-386刊行された。さらにまた2編の論文を作成中であり、近いうちにそれぞれJournal of Asian Public Policy, International Transactions in Operational Researchに投稿予定である。 
 

II. 審査結果報告
 本論文の最終報告に引き続き、平成22年10月7日(木)16時より審査委員会が 開催された。審査委員は大山達雄教授(主査)、諸星穂積教授(副査)、畠中薫里准教授(副査)、吉井邦恒氏(副査)、伏見正則名誉教授(東京大学)の5名 であったが、 論文としての構成、論理の展開といった点での完成度が高い、数理モデルを用いた定式化が難しいとされる分野への挑戦意欲とその成果を評価する、現実の農業 政策分野への具体的、実際的な貢献を期待する、といった意見に加えて、本論文について以下のような意見が出された。

 

  1. 本モデルは将来の一時点のみを考慮の対象としているという点で静態的であるが、多時点を対象とする動態的モデルへの拡張を考えてはどうか。

  2. 本分析は日本を対象としたモデルであるが、ベトナムを対象とした場合の適用可能性についても論じて欲しい。

  3. 時系列分析において、4期に分割することの妥当性についても論じて欲しい。また 、より詳細に分析すれば、 の安定性についても論じることができ、政策提言となるのではないか。

  4. ネットワークモデルから得られる最適解の実現可能性についても論じて欲しい。本モデル分析においてモデルの解が実行不能となる場合がある可能性についても論じて欲しい。

  5. 細かな英語表現、図表提示についてのコメント

 

上記のコメントに対して、著者は直ちに論文の修正を行い、修正稿を提出し、主査の最終確認を経た上で各審査委員の了解を得た上で博士論文最終版として提出した。審査委員全員は本論文が本学博士論文として妥当であると結論づけた。

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