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The Economics of International Migration: A Perspective from the Source Countries

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: Nguyen Duc Thanh
学位名: 博士(政策研究)
授与年月日: 2008年3月26日
論文名: The Economics of International Migration: A Perspective from the Source Countries
主査: 大野健一教授
論文審査委員: 大来洋一教授
大山達雄教授
細江宣裕准教授
サン・ジュン・バク教授(早稲田大学大学院国際教養学術院)
山内太氏(Consultative Group on International Agricultural Research (CGIAR))

I.論文内容要旨
 
 本研究は、途上国から先進国への移民の流れおよびそれが移民輸出国の経済に及ぼす影響を分析するものである。第1章で最近の移民に関する事実(stylized facts)をレビューしたあと、第2、3章で理論モデルを提示し、第4章で移民送金に関するComputable General Equilibrium(CGE)モデルをベトナムのデータを用いて構築した。このうちアカデミックな貢献とみなしうるのは2、3、4章である。
 
第2章は、移民現象の中でも、途上国から有能な人材が先進国に流出するといういわゆるbrain drainを考察した理論モデルである。伝統的な見解では、人材を受けいれる先進国が利益を得、途上国が損失をこうむるという意味でbrain drainは問題視されていたが、最近の文献では必ずしも途上国に不利なゼロサムゲームとはみなされていない。この理由は、もし海外移民する許可がある一定のルールの下に一部の人々に制限的に与えられるのならば、それを得るために多くの人々が教育訓練を通じて人的資本を高めるからである。もしこの学習インセンティブが負の人材流出効果を凌駕すれば、途上国に残る人的資本ストックは移民があっても増加することになる。本モデルは、この萌芽的先行研究をより精緻化・一般化し、労働者の初期才能が一定の連続的分布に従うという仮定のもとで、移民があっても国内の人的資本が増加するという上記の命題がある一定のパラメーターのもとで存在しうることを証明したものである。移民選別ルールの一般化の不足、モデルの静学性といった筆者が認める弱点は有するものの、先行研 究を発展させたという意味で理論的貢献は十分認められる。
 
第3章は、brain circulationすなわち有能人材が途上国から先進国にいったん流出したあと、のちに帰国してさらに労働を続けるという現象を説明する動学的な理論モデルである。このような「里がえり」は、自国の家族・文化との心理的つながりといった非経済要因、あるいは先進国に対する過度の期待と現実のギャップ (情報ギャップ)によってこれまで説明されてきた。Thanh氏の定式化の貢献は、brain circulationの存在を純粋に経済的な要因のみによって証明した点にある。さまざまなレベルの初期才能をもつ個人が生涯を通じて効用極大化をおこなうとき、先進国と途上国で得られるであろう所得流列が一定の平均・分散に従うと仮定したとき、それらおよび各パラメーターのある条件の下で、brain circulationが生じる可能性があることが示された。また途上国の成長率が高いほど、あるいは個人の初期才能が高いほど、その蓋然性は高まることもわかった。
 
第4章は、CGEモデルをベトナムのデータに用いた移民送金インパクトの検証である。モデルは7セクターからなり、途上国 のデータ制約よりパラメーターは直接推定できず、他国の数値や研究者の判断から得た。移民送金の流入が、国際統合(関税引き下げ)と同時進行する場合としない場合について、シミュレーションがおこなわれた。一般には送金受取りは受取人にとっても経済全体にとっても望ましいと考えられているが、CGEの場合、資金流入がもたらす為替増価を通じて経済の各セクターにプラス・マイナスの影響を及ぼし、一概に望ましいといえないことが示された。これは一般均衡の 視点をもって初めて検証されることであり、データやモデルの制約はあるものの、この事実を具体的な数字として示したことはこのモデルの貢献といえよう。
 
II 審査要旨
 
2008 年2月26日午後2時より開催された博士論文発表会に引き続き、大野健一教授(主査)、山内太氏(Consultative Group on International Agricultural Research (CGIAR))、大来洋一教授、大山達雄教授、細江宣裕准教授、サン・ジュン・バク教授(早稲田大学)の6名からなる審査委員会が開かれた。各委員による5段階採点の平均値は4.62点であり、合格の基準となる4.0点を大きく上回った。博士論文は学位を授与するに十分の水準に達しているという点で審査 委員の意見は一致した。ただし、もしトップレベルのジャーナルに投稿するならば、さらに改訂を重ねることが望ましいという意見も出された。審査は合格であ るが、発表会で出された以下のようなコメントに鑑み、数週間内に少しの修正を加えて最終提出論文とすることが求められた。
1.この博士論文のアカデミックな貢献をより明確に述べること。たとえば、ある一定の仮定とパラメーターのもとでbrain drainやbrain circulationが存在しうることを経済的要因のみから定式化したこと。
2.第4章のCGEモデルにおいて、データ制約、パラメーター選択に関するセンシティビティ、結論の解釈等について、もう少し丁寧に叙述すること。
3.バク教授から指摘された、数箇所の数式の不具合を修正すること。
 
Thanh氏は2008年3月13日(木)にこれらをとりいれた修正稿を主査大野健一教授に提出、修正確認と主査の最終承認を得たうえで、3月14日(金)より他の審査委員に回覧・確認された。
審 査委員会は、査読、発表会での報告と質疑応答、その後の改訂を通じて、本学位請求論文が国際労働移動問題の理論分析およびCGE分析においてオリジナルで 重要な貢献をしており、博士論文にふさわしい学問的業績であると確認した。ゆえに審査委員会は、学位請求者Nguyen Duc Thanh氏に博士(政策研究)の学位を授与することが妥当であると結論する。

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