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The Evolution of Japanese Space Policy: The Emergence of Bounded Policy Discourse(日本の宇宙政策の進化:限定的政策論議の台頭)

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: 稲葉(杉田) 尚子
学位名: 博士(公共政策分析)
授与年月日: 2009年10月27日
論文名: The Evolution of Japanese Space Policy: The Emergence of Bounded Policy Discourse(日本の宇宙政策の進化:限定的政策論議の台頭)
主査: 角南篤准教授
論文審査委員: 佐藤靖准教授
大山達雄教授
中須賀真一教授(東京大学)
Richard Samuels教授(マサチューセッツ工科大学)

I. 論文内容要旨
 本研究は、これまであまり包括的に分析されてこなかった日本の宇宙政策をその起源である1950年代まで遡り、ペンシルロケットの開発に成功した糸川教授ら研究者コミュニティーや中曽根元首相ら政治家コミュニティー、旧科学技術庁をはじめとする行政組織などを中心に政策過程における主要アクターとその行動を規定あるいは制約する制度を明らかにする資料を収集、分析を試みた。その過程で、日本の宇宙政策を特徴づける性質ごとに、1950年代、70年代から80年代中ごろ、そして80年代後半と90年代というように区分し、政策過程にみられる経路依存と制度均衡のシフトの過程が明らかにされている。昨今、我が国の宇宙政策に対する関心が集まっている。その背景には、「はやぶさ」の帰還や 事業仕訳による科学技術全般に対する見直しがあるが、2008年に超党派の議員立法で成立した宇宙基本法に端を発する。その結果、現在では内閣府に宇宙開 発戦略本部が立ち上がり、宇宙開発の方向性について積極的な政策論議が行われる体制が整いつつある。そうした中で、本研究をはじめとしこの分野の政策研究への期待がますます高まっている。
 筆者は、これまでの日本の宇宙政策に焦点を当てた主な研究を、以下のように大きく三つの分析枠組みに区分して いる。①新現実主義と新国際協調主義、②テクノ・ナショナリズム、③政策ロジック(鈴木)に分類し、それぞれの分析アプローチの有効性と限界について比較 している。そのうえで、日本のこれまでの宇宙政策を日米関係を基軸に制度化された政策過程に着目し、経路依存的な過程と制度そのものが大きく変革する過程 の双方で分析している。こうした新しい視点による日本の宇宙政策の再考は、宇宙政策に関する研究のみならず、日本の科学技術政策の歴史的研究においても、 意義のある論文であるといえる。とりわけ、英語で書かれた論文として、日本の宇宙政策、あるいは科学技術政に関する研究として、国外に発信するとても貴重 な成果になっていくと考える。
 本研究の成果は、今後、本研究の成果の一部は論文として国際的ジャーナルSpace Policyに投稿する予定である。 
 
II. 審査結果報告
本 論文の最終報告に引き続き、平成22年1月21日(木)14時30分より審査委員会が開催された。審査委員は角南篤准教授(主査)、佐藤靖准教授(副査)、大山達雄教授、中須賀真一教授(東京大学)、Richard Samuels教授(マサチューセッツ工科大学)の5名であったが、 論文としての構成、詳細な史実の蓄積といった点での完成度が高く、これまで包括的な分析があまりされてなかった日本の宇宙政策の歴史的な分析研究として評 価するといった意見に加えて、本論文について以下のような指摘がされた。

 

  1. 分析の枠組みとして用いられているConstructivism(構成主義)によるNeo Realist(新現実主義的アプローチ)への批判について、本論文で展開している日本の宇宙政策の策定過程の分析では必ずしも十分な論証であるとは言えない。

  2. 日本の宇宙政策コミュニティーによる対米意識というものがどうであったかという点について、本論文が示すところは間違っていないが、それだけで新現実主義による分析枠組みを完全に無効であると否定できない。

  3. これまでの他の国際関係論の研究をさらに参考にして、構成主義による分析的枠組みの有効性を明確にする必要がある。

  4. 本研究の成果は、これまでの日米関係や日本をめぐる国際関係の研究に新たな事例を加えるものであり、高い貢献が期待される。

  5. 本研究の成果を、国内外の関連学会や政策討論などの場においてはやく発表すべきである。日本の宇宙政策については国内外から注目されており、本研究が整理し明らかにしている問題点や課題を克服できるような政策論議を引っ張っていく必要がある。

 

上記の各審査員のコメントに基づいて、著者は論文の修正を行い、修正稿を提出し、主査の最終確認を経た上で博士論文最終版として提出した。審査委員全員は本論文が本学博士論文として妥当であると判断した。 

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