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鉄道事業における安全管理体制構築のための数理モデル分析手法の適用に関する研究

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: 三和 雅史
学位名: 博士(政策研究)
授与年月日: 2007年4月25日
論文名: 鉄道事業における安全管理体制構築のための数理モデル分析手法の適用に関する研究
主査: 大山達雄
論文審査委員: 諸星穂積
中村玲子
山野峰
古林隆(法政大学)
石川達也(北海道大学)

I.論文内容要旨  

 

 我が国における鉄道事業は地方を中心に厳しい経営状態にあり、事業の効率化による経営状態の改善が課題である。重要な社会基盤である鉄道の安全性については、近年の事故の発生に伴いその向上の必要性が益々強くなりつつある。本論文では、数理モデル分析手法の適用によって、鉄道事業経営において重要な課題である事業の効率化と安全性の向上を実現する戦略を策定することを目的としている。

 本論文では、最初に我が国の鉄道事業経営や安全管理としての軌道保守、鉄道事故及び対策の現状と既往の研究を示し、効率化や安全性向上を検討すべき対象及び範囲を明確にしている。最適軌道保守計画策定のための各種数理モデルを構築し、モデルの妥当性の検証を行っている。先ず、軌道狂いの劣化状態を表す確率モデルと軌道狂い推移を予測するための解析モデルを構築し、適切な軌道狂い保守計画を作成するための最適軌道保守計画策定モデルの定式化を行っている。実線区データを用いた計画の試験作成結果や現地試験結果に基づいてモデルの有効性を確認した上で、本モデルにより得られる計画を軌道状態、保守費用、作業性の観点から分析し、モデルが出力する計画の特性を把握する。鉄道事業経営における安全性に関しては、鉄道事故データを統計的に分析して発生過程や被害の特徴、傾向を把握し、鉄道事業者の特性と事故の発生の伴う影響の規模に着目して安全性を効率的に向上する戦略を示している。

 最適軌道保守計画策定のための最適化モデルの定式化にあたっては、軌道ユニットの保守時期とMTTの各保守基地への配備時期を出力する数理モデルを構築している。そこでは、制約条件としてMTT稼働制約、軌道の劣化状態に関する制約、論理制約が主要制約であるが、目的関数としては、年間の保守による改善量の最大化を評価基準としている。保守費用の増加により軌道状態が良化し、また保守対象ユニットを短くした方が同じ保守費用で良好な状態を維持できる。したがって、1日の保守延長が同じであれば、状態が悪い箇所を限定的に保守した方が効率的である。しかしながら、実際の保守は営業列車の合間(保守間 合時間)に実施される為、ユニットが短いと階層や段取りに多くの時間を要し、1日に多くの延長を保守することは不可能となる。ユニット長さと1日の保守箇所数を適用対象エリアの実情に合わせて適正な値に設定して計画を作成する必要がある。保守作業および付帯作業時間を仮定して消耗品費等損料と人件費、それ らの和(保守費用)を算出した結果に基づいて、保守費用はユニット長さ300mのときに最小であることが示される。軌道狂い作業の計画、実施においては、 品質(軌道状態)、コスト(保守費用)、作業性(MTT移動距離、回数)が考慮される。軌道状態と保守費用の関係については、高低狂い標準偏差の増加率に対する保守費用の変化率[弾力性]を一定とするモデルを前提とし、軌道状態が改善すると安全性が向上して事故リスクが軽減される為、鉄道事業者には利益 (マイナスの費用)が発生すると考えた上で、ユニット長さ400mとして得られる軌道状態と各費用、総費用の関係から、総費用の最小値は高低狂い標準偏差 が1.7mmのときであることが示される。

 鉄道事業経営における安全性に関しては、鉄道事故データを各種統計手法を用いた解析結果が示される。鉄道事故種類別の件数をJRと民鉄など (PR)に分け、列車脱線、列車衝突、踏み切り障害事故の順に事故件数が多く、これらで全体の約90%を占めることが示される。JRとPRの件数の日は 5.7:4.3であり、列車キロの割合(6:4)に近い。事故原因は踏切、鉄道係員、自然災害の順に多く、踏切の多くは自動車との衝突事故であって、事故種類の多くを占める列車衝突、列車脱線、踏切障害事故について考察が加えられる。鉄道事故の発生間隔分布は指数分布への適合度が高く、重大事故の発生はポアソン過程と見做すことができることが実証される。死傷者数は列車速度とともに増加する傾向にあって、支障時間分布は指数分布への適合度が高いことが示さ れる。

 鉄道運転事故件数の推移をJRとPRに分けると、事故件数は減少傾向にあって、2005年度におけるJRとPRのシェアは5.3:4.7であり、 重大事故データ同様、列車キロの割合(6:4)に近いのが示される。踏切事故のシェアが最大であるが、年々減少の傾向にあって、遮断機なし踏切の数の削減の効果と考えられる。一方、人身・物損事故のシェアは増加傾向にあることも示される。

 鉄道事業経営において重要な課題である事業の効率化と安全性の向上を実現する戦略の策定を目的として数理モデル分析を実施し、構築した最適軌道保守計画策定モデルによると、保守費用と軌道状態とのバランスを考慮した最適な軌道保守計画を策定することが可能となった。また、提案した安全性向上戦略に より、事業者の特性に応じた安全性向上策を検討することが可能となった。

 

II 審査要旨  

 

 本論文の最終報告に引き続き、平成19年3月26日(月)午前11時から審査委員会が開催された。審査委員は大山達雄教授(主査)、諸星穂積助教 授(副査)、中村玲子教授(副査)、山野峰助教授(副査)、古林隆教授(法政大学)、石川達也助教授(北海道大学)の6名であったが、 本論文について以下のような意見が出された。

 

  1. 鉄道事業経営において重要な課題である事業の効率化という問題に対して各種数理モデル分析を実施し、モデルの検証を経た上で構築した最適軌道保守計画策定モデルがすでに実用的にもかなり広く利用されているということは、本学における博士論文の研究成果が公益事業における意思決定、戦略策定に大いに貢献していることを意味し、高く評価できる。

  2. 本研究の成果はすでに多くの国内外の関連学会においても発表され、学術論文としても4編がすでに刊行されているというのは、本研究論文が研究成果としてのオリジナリティーを有し、レベルが高いことを意味し、本学の博士論文の水準に十分に達していると評価できる。

  3. 本論文の主要成果である最適軌道保守計画策定モデルについても、論理性、実用性、一般性、新規性についての議論は十分になされているが、問題点、限界、将来課題といった点についてもより明確にして欲しい。

  4. 本論文の後半にある事故データ解析については、非常に重大な課題であるので、論文として構成上の工夫、内容の追加改善といった点をさらに考慮して欲しい。また前半部分との関連、リンクをより明確にして欲しい。

  5. 本論文の成果について、わが国の交通政策、鉄道事業政策といった政策的見地からの議論がもう少しあっても良いのではないか。

  6. 細かな記述についても不適切な箇所、ミスも散見されるので(別紙に指摘箇所参照)、部分的削除、表現の変更、修正といった処理をして欲しい。

 

 上記のコメントに対して、著者は直ちに論文の修正を行い、修正稿を提出し、主査の最終確認を経た上で各審査委員との了解を得た上で博士論文最終版 として提出させることにした。審査委員は、このような手続きを経ることに合意し、本論文が本学博士論文として妥当であると結論付けた。

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