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Human Capital and Industrial Development: The Case of the Garment Industry in Bangladesh

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: Khondoker Abdul Mottaleb
学位名: 博士(国際開発研究)
授与年月日: 2007年9月26日
論文名: Human Capital and Industrial Development: The Case of the Garment Industry in Bangladesh
主査: 園部哲史
論文審査委員: 大塚啓二郎
山野峰
山形辰史(日本貿易振興機構アジア経済研究所)
大山達雄

I.論文内容要旨
 
 東アジア諸国に続いて、東南アジア諸国の多くが経済発展に成功し、インドでも目覚しい発展が起こっている。これらの経済発展を牽引しているのは、製造業を中心とする産業の発展である。アジアで見られた力強い産業発展は、貧困にあえぐサハラ砂漠以南のアフリカ諸国ではまだ始まっていない。その開始を促進する政策策定のためにも、アジアにおける産業発展の仕組みが解明されることが 望まれる。
 本研究は上述のような状況を踏まえつつ、成長著しいバングラデシュのアパレル産業の発展構造を解明しようという試みである。この産業は1980年代初頭から輸出産業として発展を開始した。その後25年間にわたって、同産業は同国の主力産業として成長を続け、今日では同国の全輸出額の 75パーセント、世界全体のアパレル製品の輸出額の2.3パーセントを占めるに至っている。最貧国におけるこのように画期的な産業発展は、経済発展に関心を寄せる実務家や研究者の耳目を集めている。しかしこれまで、その発展のメカニズムを厳密に分析しようという研究はまったく行われてこなかった。本研究は ニット製品製造企業92社と、アパレル商社40社の計132社から、1998年から2005年にわたる期間の経営状況と、経営者の経歴に関する詳細なデータを収集し、統計学的分析を行っている。
 本研究はまず、製造や販売に関する先進国の知識が途上国の企業経営にとって有用であることを実証した。それを示すために、本研究では経営者が先進国においてアパレル事業のトレーニングを受けたか否かによって、企業の業績がどの程度影響されるかを分析している。興味深いことに、経営者がトレーニングを受けたのは10年前やそれ以上前であるのに対して、分析の対象となっている業績は近年の業績である。つまりこの分析結果は、過去のトレーニングがその後も効果を持ち続けることを意味している。産業組織や経済成長の文献では、模倣による有用な知識は産業内でたちまち普及するという見方が一時は有力であった。しかし、実際には普及には時間がかかるというのが本研究の分析結果である。
 第二に、製造業者のうち 教育水準が高い経営者ほど先進的な経営を行い、優れた企業業績を残していることを実証した。これはおそらく教育水準の高い経営者の方が、先進的な知識を吸収することに長けているからであろう。しかし、輸出向けアパレル産業の国際競争は厳しい。主要な顧客である先進国の大手小売企業は、価格の引下げ、品質の 向上、納期の短縮を要求し、製造業者がそれに応じられなければ発注先を変えてしまう。知識の吸収力の弱い企業は、そうした過酷な競争をいかにして生き抜いてきたのだろうか。
 そこで第三の分析として本研究は、知識の乏しい製造業者は知識の豊富な商社が提供する追加的なサービスに依存することで競争を生き抜いてきたという仮説を検証した。製造業者の数が4000社以上にまで増大したのは、商社との間の分業が発達したことによって、先進国でトレーニングを受けていない経営者や、模倣力の弱い経営者もアパレル製造業に参入できるようになったからであろう。しかし近年、多国間繊維協定による輸出制限が撤廃されてアパレルの国際市場の競争はいっそう激化し、それに伴い商社が製造に乗り出す風潮が強まっている。そこで本研究は第四に製造に進出する商社の特性を 分析し、先進国でのトレーニングの経験があり学歴の高い経営者ほど、製造工場と商社の両方を経営する傾向が強いことを実証した。
政策的な含意として、途上国の産業発展を促進するために、経営と技術にかんする経営者トレーニングに注力するべきであることと、産業集積の形成を支援すべきであることの二点を挙げている。
 
II 審査要旨
 
  9月6日(木)午後3時から開催された博士論文発表会に引き続いて、大山達雄教授、大塚啓二郎教授、山野峰准教授、山形辰史(日本貿易振興機構アジア経済研究所開発戦略研究グループ長)、および園部哲史(主査、教授)の5名からなる審査委員会が開かれ、学位請求論文の意義として次の点が高く評価された。
第一に、商業は一国の経済活動の中で大きな割合を占めるが、商人の活動が経済の発展にいかなる役割を果たすのかを実証的に分析した研究は乏しい。それは、商人を対象とした調査が困難で、信頼できるデータが欠如しているからである。本研究が、商人から直接聞き取りを行い、統計学的分析に耐えうる精度のデータを獲得したことは賞賛に値する。
第二に、先進国の知識の導入が途上国の産業発展にとって不可欠であることはつとに指摘されてきたが、その主張の実証的な裏づけは十分ではなかった。本研究の数量的分析は、そのギャップを埋めようという最近の研究の中で、水準を大きく越えるものである。
 
審査委員会ではまた、学位請求論文に対して次の諸点の改善を求める意見が提起された。
   

  1. 政策的含意として、産業集積の形成の重要性を指摘している。たしかにバングラデシュのアパレル産業が産業集積を舞台として発展したことは事実である。しかし、論文は産業集積の効果そのものを分析しているわけではないから、これを政策的含意とすることには難がある。

  2. 仮説にはあいまいな部分があり、そのため検定可能とは言えない仮説がある。実際に検定する事柄だけを仮説として掲げるべきである。

  3. Upgrading effortsという言葉が頻繁に用いられるが、effortsというのは必ずしも結果を伴わない場合にも当てはまる言葉であるので、あいまいである。より意味が限定される言葉に書き換えるべきである。

  4. 推定されたモデルの定式化が、いかなる基準で選択されたのかを明記するべきである。

  5. モデルの係数の推定値が持つ量的な意味についてより詳しく言及すべきである。

  6. 企業調査に当たって、すべてのアパレル企業を代表するようにサンプルを選択したわけではないようである。サンプリング方法を明記すべきである。

  7. 経営の高度化を示す指標として用いられている諸変数が、いかなる意味で経営の高度化を表すのかをより詳しく説明するべきである。

  8. EUによるRule of Origin規制の強化は、バングラデシュのアパレル産業にとって重大な意味を持つので、その点の記述を充実させる必要がある。

  9. Skilled workerの定義があいまいである。

  10. 教育年数と海外でのトレーニングの交差項を含めた回帰分析や、海外でのトレーングが何年前に行われたかを考慮した回帰分析を試みてはどうか。ただし、これらの分析は今後の学術雑誌向けの論文には含めるべきだが、博士論文に含めなくてもよい。

 

 これらの改善を求めるコメントはついたが、本論文が理論および政策分析の双方において博士論文にふさわしい学問的業績であることについて、審査委 員全員の賛意が得られた。各審査委員による5段階採点の平均値は4.7点であり、合格基準である4.0点を大きく上回った。そこで、審査委員会は以上の諸 点の改訂が確かに完了したという主査の判断をもって合格とすることを決議した。すなわち、審査委員会は本論文の査読及び発表会での報告と質疑応答のすべて に鑑みて、博士(国際開発研究)の学位を授与することが妥当であると結論する。

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