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中国の海洋進出がもたらしたもの -東アジアの海洋秩序に与えた影響-

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: 川瀬 和広
学位名: 博士(国際関係論)
授与年月日: 2011年3月23日
論文名: 中国の海洋進出がもたらしたもの -東アジアの海洋秩序に与えた影響-
主査: 白石隆教授
論文審査委員: 白石隆教授(主査)
道下徳成准教授(副査)
高原明生教授(副査)
本名純教授(副査)

I. 論文要旨
 本論文は、中国の1980年代から1990年代半ばまでの南シナ海への進出、および 1990年代半ばから現在に至る東シナ海への進出が、それぞれ、東アジアの海洋秩序にいかなる影響を与えたか、を分析する。中国の海洋進出はきわめて多岐にわたる現象である。その一方、既存の研究の多くはそうした現象の一部にのみ着目して分析を行っている。こうした状況に鑑み、本研究では、中国の海洋進出を総合的に把握し、その影響を評価することを試みる。そのため、秩序を「関係国の国家行動のパターンの総体」と定義付け、その上で、中国をはじめとする関係国の国家行動を軍事・安全保障分野、経済・社会分野、規範分野の3分野に分類し、それぞれの行動が秩序に与える影響の観点から、これをさらに一方的行動と協調的行動に分類して分析する。また、そもそも中国がいかなる意図に基づき海洋への進出を図っているのかも併せて分析する。
 本研究の分析によれば、中国の海洋進出がもたらしたものは、軍事・安全保障面での対抗行動を通じた対立の高まりと、対立状態を管理するための協調的な諸行動、そして、多国間主義を含む国際規範の発展であった。すなわち、中国の海洋進出が一種の触媒となり、東アジアの海洋を巡る国家の相互関係の深化がもたらされた。反対に、経済・社会分野における秩序の変化の度合いは小さかった。また、中国の海洋進出は、防衛線を中国の海岸線から、いわゆる「第一列島線」まで押し出すことと、短期的な経済的利益よりも、むしろ長期的な海洋権益保護を目的として進められていると考えるべきである。
 本研究の政策的インプリケーションは以下のように整理できる。本研究の明らかとするように、中国の行動には、周辺国と軋轢をうみにくい経済社会分野の行動を先行させ、能力的に必要な水準が達成されると軍事・安全保障分野で一方的行動を実行に移すというパターンがある。中国が海洋進出の意図をもち、その能力が拡大している現状では、一方的行動の懸念は相当程度大きい。中国海軍の能力拡大に対しては、適切な能力と態勢の保持によってこれを抑止しつつ、規範分野における政策によって、中国を規範の中に取り組んでいくことが基本となる。 
 
II. 審査結果報告
 本論文の最終報告に引き 続き、平成23年2月3日(木)13時半より審査委員会が開催された。審査委員は白石隆教授(主査)、道下徳成准教授(副査)、高原明生教授(副査)、本 名純教授(副査)の4名であり、論文の構成、データの収集と分析、論理の展開といった点において、完成度の高い優れた論文であると評価された。またその際、以下のような点について、修正が提言された。
(1)ある分析のレベルでは、方法的に、中国の行動の合理性を想定した分析が可能である。その分析のレベルを明示する。
(2)それに関連し、「中国」を一つのまとまりのあるアクターとして想定することの根拠と理由を明示する。
(3)論文の結論部分をもう少し丁寧に書き足す。
(4)南シナ海における紛争について、東南アジア諸国の対応について、追加的に文献サーベイを行う。
(5)中国の非軍事アクターの位置付けを明確にする。
(6)南シナ海と東シナ海の分析対象時期について明示的に説明する。
(7)中国語資料を使用しないことの意味を明らかにする。
(8)本論文が最近の中国の海洋活動を理解する上でも有用な分析視覚を提示していることを明示する。

 上記のコメントに対して、著者は直ちに論文の修正を行い、修正稿を提出し、主査の最終確認を経た上で各審査委員の了解を得た上で博士論文最終版として提出した。審査委員全員は本論文が本学博士論文として妥当であると結論つけた。 

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