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State Power, Public Policy and Religion: Islamization of Education in Pakistan(国家権力、政策、宗教:パキスタンにおける教育のイスラム化の考察)

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: Imdad Hussain
学位名: 博士(公共政策分析)
授与年月日: 2010年9月1日
論文名: State Power, Public Policy and Religion: Islamization of Education in Pakistan(国家権力、政策、宗教:パキスタンにおける教育のイスラム化の考察)
主査: 河野毅客員准教授
論文審査委員: 大山達雄教授
岩間陽子教授
Donna Amoroso准教授
田辺明生教授(京都大学)

I. 論文内容要旨

 本論文では、1947年の独立から1999年(ムシャラフ陸軍参謀長によるクーデターによる政権奪取)までの間におけるパキスタン・イスラム共和国の教育政策を分析し、教育の質、量ともにイスラム化が進んだ理由を解明する。教育のイスラム化政策とは、(1)イスラム教の価値を国家教育カリキュラムと教育手法に導入する、(2)国家が主導するイスラム化教育を私立イスラム神学校に導入する、(3)上記を通じ、教育のイスラム化を国家主導で確立する過程、と定義される。従って、本論文では、国家が教育政策を通じてその権力を確立する過程を、教育のイスラム化という過程を通じ国外要因と国内要因の2つの要因に分けつつ詳細に分析する。本論文によるパキスタンにおける教育のイスラム化とは、聖典コーランの字義どおりの行動を何よりも重んじる「伝統主義」の教義を教育に広め定着させることである。そのため、国家(軍、官僚)と「伝統主義」イスラム組織間の駆け引き、緊張感、妥協、競合等が、主査の研究費で2度に渡り実施した現地調査(117名の関係者とのインタビューと文献調査)を基礎に詳細に叙述されている。 国外要因として取り上げられる重大な転機(critical juncture)は、独立間もない1948年に第1次印パ戦争が勃発し、当初より戦時状態が続いたパキスタンでは、挙国体制の確立が政治リーダーの課題であった時が最初の転機として説明される。その後、インドとの緊張は継続し、第2次印パ戦争(1965年)が勃発し、さらに第3次印パ戦争(1971年)によりバングラデシュ(当時の東パキスタン)が独立し、現在のパキスタン、バングラデシュの2つの独立国となった転機がある。これら大きな政治的な転機に加え、1979年にソビエト連邦によるアフガニスタン介入後、アフガン難民の大量流入と米国とサウジアラビアの支援を利用したパキスタン経由のアフガン介入がパキスタンの教育制度を大きくイスラム化に進ませた。

 国内要因として取り上げられる重大な転機としては、国家として制度を確立する必要に迫られた軍と官僚が主導して、(1)カリキュラムと教科書の作成、(2)教員の養成、(3)国家統一を目的とした教育理念の確立の3本柱の制度確立のために、1949年の「客観的決議(Objective Resolution)」の発出をもって教育のイスラム化を進め、この決議が節目節目で国家権力の確立のために利用され、反対勢力を押さえていった過程が叙述されている。この国家主導の教育のイスラム化は、「伝統主義」イスラム組織からの批判に曝されるが、本論文では、国家が先にイスラム化プロジェクトを進め主要な「伝統主義的」聖職者を国家組織の一部として取り込みつつ「伝統主義的」イスラム組織の先手を打つことで、国家の優位を保つ過程が説明される。 本論文は、その結論で、独立以来継続する教育のイスラム化では、個々の能力を最大に引き出し先進的な研究開発を進める人材は育成できなかったと批判する。さらに、国家主導の教育のイスラム化は継続するだろうと推測する。それは、パキスタン国家そのものが、国家制度確立のためにイスラム化というプロセスを利用しなければ生き残ることができないという現実があるからだと論じる。従って、イスラム化を理論づける「伝統主義的」イスラム教義そのものの改革が無ければ、この批判されるべき教育のイスラム化を止めることは不可能であろうと結論づける。

 

II. 審査結果報告

 本論文の最終報告に引き続き、平成22年6月11日(金)15時より審査委員会が開催された。審査委員は河野毅客員准教授(主査)、大山達雄教授(副査)、岩間陽子教授(副査)、Donna Amoroso准教授(副査)、田辺明生教授(京都大学)の5名であったが、 計量化が困難な内容且つ時勢的にも自由な現地調査が難しい内容を、制度的、政治的な要因を詳細に分析した、タイムリーな貢献を評価する、といった意見に加えて、本論文について以下のような意見が出された。

1.定量化できる要素を通じて分析を進めることで、さらに説得力のある論文となろう。そのためには、仮説を十分に説明しまず提示することで、その後の議論を実証的な内容にする必要がある。

2.歴史的な叙述に重点が置かれた結果、政策分析の手法に関する議論が弱いため、理論(本論の場合はhistorical institutional theory)を深めた議論を第1章で詳細に展開すると良い。

3.「イスラム化」の定義をまず最初に提示にしておくことで、筆者の立場を明確にし、これはイスラム勢力からの批判をかわす効果もあるはずである。

4.本論文のテーマであるイスラム化を、教育という分野で分析したのが本論であるが、他の政策分野でも分析することで比較ができるのではないか、さらにパキスタンのみならず他国(マレーシア、トルコなど)の状況と比較することを今後期待する。

5.本研究論文が研究成果としてのオリジナリティーを有し、レベルが高いことを意味し、本学の博士論文の水準に十分に合格に値する。 上記のコメントに対して、著者は直ちに論文の修正を行い、修正稿を提出し、主査の最終確認を経て、各審査委員の了解を得た上で博士論文最終版として提出した。審査委員全員は本論文が本学博士論文として妥当であると結論つけた。

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