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貿易の円滑化を中心とする関税政策に関するWTO体制とWCO体制の分析

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: 藤岡 博
学位名: 博士(政策研究)
授与年月日: 2012年2月22日
論文名: 貿易の円滑化を中心とする関税政策に関するWTO体制とWCO体制の分析
主査: 飯尾潤
論文審査委員: 恒川惠市
大山達雄
小寺彰(東京大学)

Ⅰ.論文要旨

 

 本論文は、申請者の実務経験をもとにしつつ、関連する資料や文献を広く検討し、関税政策における国際的な基準作成がどのようにして行われるのか を、「貿易の円滑化」という側面に着目し、WTOやWCOなど関連の国際機関の特徴を比較しつつ、具体的に分析したものである。 
 序章では、研究の背景、目的と意義、研究対象と方法など、論文の前提となる事項が説明されている。そこでは、とりわけ国内規範と国際規範との関連が深まる現象について注目すべきことが示される。 
  第1章は、本論文が焦点を当てる「貿易の円滑化」とは何かについて、現状におけるその重要性と、歴史的な経緯が述べられる。本論文では「貿易の円滑化」を、税関を中心的な担い手とする国境における貿易実務の円滑化、として定義しているが、それは、戦間期から継続的な関心を集めており、1923年の「税関手続きの簡易化に関する国際条約」などをもとに、戦後も多数国間条約に引き継がれながら地道に発展してきたという。それが近年になって、関税負担が軽減され、物流費用への関心が高まるとともに、2001年の米国同時多発テロ以降には「安全の確保」についても関心が高まったことなどから、とりわけ注目を集め るようになり、2008年の金融経済危機後にも、この推進が大きなテーマとなっていることが紹介される。 
 第2章は、WTO体制において、「貿易の円滑化」がどのように、扱われてきたのか、歴史的に検討を進め、ドーハ・ラウンド交渉にいたる流れを描いている。本論文では、1947年ガット条約以 降の体制をWTO体制と呼んでいるが、第1節において、1947年ガットにおける「貿易の円滑化」の意義とその後の進展をたどる。第2節においては、 1994年ガットにおける貿易の円滑化に関わる3条文を分析するとともに、WTOの持つ機能を便宜的に立法・司法・行政の3機能に分けて解明している。第3節においては、「貿易の円滑化」が持つ、日常性と大量性、専門性と技術性、安全の確保との関係性などの特質に対して、WTOが果たすべき役割を考察している。そのうえで、第4節では、現状分析としてドーハ・ラウンド交渉の経緯をたどり、2009年の「統合ドラフト」の意義と日本の貢献を明らかにしてい る。 
 第3章は、WCO体制において、「貿易の円滑化」がどのように推進されているのかを検討し、そのうえで、WTOと比較してWCOが持つ特徴について検討している。加えて関連する他の国際機関のあり方も概観している。まず、第1節では、WCOの成立過程と内容を解説した後、WTOと同様の3機能に分けて、WCOの機能を分析している。そのうえで第2節では、さらに具体的に「商品の名称及び分類についての統一システムに関する条約」(HS条約)、改正京都規約、「基準の枠組み」、「21世紀の税関」といった現在のWCOの活動の中核となる枠組みについて個別に検討している。そして第3節において、WCO体制の特徴に関して、輸出入を行う「者」に着目して規制を行うAEO制度に関わる相互承認の例や、WTO体制との比較、バーゼル委員会体制との比較など、さらに具体的に検討を進めている。第4節では、世界銀行、アジア開発銀行、APEC、ASEMにおいて、「貿易の円滑化」がどのように扱われているのかが検討されている。 
 第4章は、日本における「貿易の円滑化」として、日本政府のこの問題に対する取り組みを整理している。各節で具体的な事例が扱われるが、第1節では、ITの利用とリスク・マネージメントが、第2節ではAEO制度の推進と相互承認が、第3節では安全検査と国際的なネットワーク、とりわけ途上国におけるキャパシティ・ビルディングが分析される。 
 第5章は、分析の結果を総括するとともに、この政策分野における今後の方向性について、政策的含意を提起している。まず、これまでの検討で、通商に関する国際法の体制としては、WTOのように、極めて整序だった条約と膨大な事務局機構を有する国際機関を中核とする国際法の体系である「整備された国際法体制」と、WCOに見られるような、条約という形式にのみ依拠しない種々の国際規範と比較的小規模な事務局機構を有する国際機関を中核とする「簡素で実際的な国際規範の体制」の二つが見られることが整理された。そして「貿易の円滑化」という側面を考えた場合には、「整備された国際法体制」よりも「簡素で実際的な国際規範の体制」の方が、高い成果を上げているとされる。 これは、「貿易の円滑化」に見られるような種類の問題については、国際的に成立した行政的機能が有効な成果を上げられるということを意味しているという。 さらに、大前提としてWTOなどの体制も重要ではあるが、WTOなど政治化する場においては取り扱いにくい問題があるという主張につながる。また、日本は WCO体制で高く評価されており、簡素で実際的な国際規範が成立す場では、その意味でも積極的な活動が期待されるとする。

 

Ⅱ.審査報告

 

 平成23年10月31日(月)の博士論文最終報告に引き続き、主査である飯尾潤教授、副査である大山達雄教授、恒川惠市教授、小寺彰教授(東京大学)による審査委員会が開かれた。この際、本論文について、次のような意見が出された。

 

  1. 関連の文献・原資料をよく読み込んだうえ、自身の実務経験も加味し、当該政策に関して、極めて詳細な叙述がなされているのは事例研究として貴重である。 

  2. 分析の視角を「貿易の円滑化」に的を絞りつつ、WTOとWCOの役割の違いなどを具体的な事例に則して描き出し、技術的要素を含む行政が国際的にどのように調整されるのかを説得的に示したことは、学術的にも価値がある。 

  3. 論文の叙述において、論文の目的を明確化するために、各章のつながりを強化するための加筆を行うべきである。また、便宜的な概念使用については、その旨を付記した方がよい。 

  4. WCOのルールメイキングにおける役割の限界や、非政治性にともなう機能の有効性と限界について、言及すべきである。 

  5. 「貿易の円滑化」に関するリスクや効率性についての課題、あるいは利害調整の力学についての課題があることに触れるべきである。 

  6. 表題をもっと直接的なものに変更するとともに、章が細かく別れているので、論旨に沿って統合すべきである。また、学術論文らしい体裁にするために、表現を精査すべきである。

 

 全体として、本学の博士にふさわしい論文であると全員の意見が一致し、上記で指摘された諸点について修正したうえで、博士(政策研究)= Doctor of Policy Studiesの学位を授与すべきであるという判断が下された。論文修正後の措置に関して、各審査委員が最終版について承認し、修正した最終版が提出されたことを主査が確認した。

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