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Applying Systems Analysis Approaches for Measuring the Robustness and Improving the Safety of Urban Transportation Network Systems(システム分析手法の適用による都市交通ネットワークシステムの頑健性の計測と安全性の改善に関する研究)

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: Gozun Brian Canlas
学位名: 博士(社会システム分析)
授与年月日: 2008年7月23日
論文名: Applying Systems Analysis Approaches for Measuring the Robustness and Improving the Safety of Urban Transportation Network Systems(システム分析手法の適用による都市交通ネットワークシステムの頑健性の計測と安全性の改善に関する研究)
主査: 大山達雄教授
論文審査委員: 森地茂教授
大山達雄教授
諸星穂積教授
中村玲子教授
森田浩教授(大阪大学)

I.論文要旨
 
人口の大都市への集中問題は世界各国において過密による住環境、社会環境の悪化を招き、そのため自然災害、あるいは犯罪、テロなどの緊急事態が発生するたびに、市民生活にとって重要かつ必須とされる電力、ガスなどのエネルギー、交通、情報、医療といったライフラインネットワークの脆弱性が社会問題となっている。本論文では、都市交通問題を研究対象とした上で、まず都市交通ネット ワークシステムに対して道路セグメントの重要度、道路システムの頑健性の計測を行う。さらに鉄道事業経営における安全性に関する問題として、我が国で発生 した重大鉄道事故データに対して各種統計手法を用いた解析を行うことによって安全性の改善戦略を提案することを試みる。
本研究の大きな目的は以下の3つにまとめられる。
 
(1) 都市道路ネットワークシステムに対してそれぞれの道路セグメントの”重要度”を定量的に計測する方法を提起し、それを東京、マニラといった実際の大都市の道路ネットワークに適用し、実証的比較分析を行う。
(2) 都市道路ネットワークシステムに対してそれぞれのシステムの頑健性の計測、評価を行う方法を提起し、それを東京、マニラといった実際の大都市の道路ネットワークに適用し、実証的比較分析を行う。
(3) 我が国で発生した重大鉄道事故データに対して各種統計手法を用いた解析を行うことによって安全性の改善戦略を提案し、その評価を行う。さらに、我が国の自然災害データを定量的に分析することによって、発生状況、被害状況を説明する統計モデルの構築を試み、重大鉄道事故データと自然災害データを比較対照付けする分析を行う。
 
上記(1)の道路セグメントの”重要度”を定量的に計測する方法として最短経路数え上げ法を提起し、それに基づいた実 証分析を行っている。最短経路数え上げ法は道路ネットワークにおける任意の2頂点間の最短経路が何本それぞれの道路セグメントを通過するかを数え上げる方法であるが、これによってそれぞれの道路セグメントの”重要度”を定量的に計測しようとするものである。東京、マニラといった実際の大都市の道路ネット ワークに適用すると、それぞれの都市の道路セグメントの”重要度”が定量的に評価することが出来、さらに交通量調査等によることなく、道路混雑が予想され る部分が現実の各都市の主要道路として得られることを示している。
上記(2)の道路ネットワークシステムの頑健性の計測、評価を行う方法として経 路数え上げ法を提起し、現実の道路ネットワークに適用した実証分析の結果が示される。経路数え上げ法はネットワークにおける任意の枝が削除されたときに任意の2頂点間の経路が何本存在するかを数え上げる方法であるが、それを東京、マニラといった実際の大都市の道路ネットワークに適用し、東京の道路ネット ワークがマニラのより頑健であることが示される。この方法は現実の電力、ガス、水道、道路、情報通信等のネットワーク構造システムの頑健性を定量的に評価する方法として適用可能であるが、自然災害、あるいは犯罪、テロなどの緊急事態が発生してネットワークの枝要素が使用不能となる場合のネットワーク構造システムの頑健性評価にも利用可能である。
上記(3)の我が国の重大鉄道事故データの統計解析としては、1987年から2003年にかけて発生した事故を対象として分析を行い、鉄道事業経営における安全性改善戦略分析が示される。鉄道事故種類別の件数をJRと民鉄など(PR)に分け、列車脱線、列車 衝突、踏み切り障害事故の順に事故件数が多く、これらで全体の約90%を占めることが示される。JRとPRの件数の日は5.7:4.3であり、列車キロの 割合(6:4)に近い。事故原因は踏切、鉄道係員、自然災害の順に多く、踏切の多くは自動車との衝突事故であって、事故種類の多くを占める列車衝突、列車脱線、踏切障害事故について考察が加えられる。鉄道事故の発生間隔分布は指数分布への適合度が高く、重大事故の発生はポアソン過程と見做すことができることが実証される。死傷者数は列車速度とともに増加する傾向にあって、支障時間分布は指数分布への適合度が高いことが示される。死傷者数の増加防止の観点からは、列車衝突、列車脱線、踏切障害事故の防止が有効であって、列車衝突事故防止のためには、路面電車[PR(軌道)]での衝突防止対策が必要であること が示される。この対策により事故件数は89件(1987.4~2001.9)から27件に大きく減少し、死傷者数1,503人は1,362人に減少することが示される。鉄道事業経営において重要な課題である安全性の向上を実現する戦略の策定を目的として数理モデル分析を実施し、提案した安全性向上戦略によ り、事業者の特性に応じた安全性向上策を検討することが可能となった。
 本研究の成果はすでにいくつかの国際学会(INFORMS (2006, 2007), APORS (2006))においても発表されている。また本研究の成果の一部はすでに論文として国際的ジャーナルInternational Transactions in Operational Researchに”Statistical data analyses to elucidate the causes and improve the countermeasures for preventing train accidents in Japan”, IFORS, Vol.13, No.3, pp.229-251, 2006として発表されており、さらにまたわが国のオペレーションズリサーチ学会機関誌「わが国の鉄道重大事故と自然災害データに基づく安全性の考察」に掲載予定である。また現在、もう一編の論文”Applying path counting methods for measuring the robustness of the network structured systems”をほぼ完成し、近いうちにJournal of Risk Analysis に投稿予定である。
 

II 審査結果報告
 
本論文の最終報告に引き続き、平成20年4月28日(月)15時より審査 委員会が開催された。審査委員は大山達雄教授(主査)、森地茂教授(副査)、諸星穂積教授(副査)、中村玲子教授(副査)、森田浩教授(大阪大学)の5名 であったが、 論文としての構成、論理の展開といった点での完成度が高い、定量化が難しいとされる分野への挑戦意欲を評価する、都市交通政策分野への具体的、実際的な貢献を評価する、といった意見に加えて、本論文について以下のような意見が出された。
   

  1. システムの頑健性について、各種指標の定義の概要、それらの相互関連、政策との関連、等についてより詳細に議論しておくことは政策提言にとっても重要である。

  2. ケーススタディは論文の主張を傍証する位置づけとする。論文の第2章に位置するのは読み手にとって不親切なので、appendixにまわす。

  3. 東京、マニラを取り上げ、比較分析を行っている点は評価できるが、より深めた議論、すなわち本稿で提起された手法によって両都市の定性的な違いがどの程度定量的に明らかになるかといった議論もあると良い。

  4. 自然災害データ分析自体は評価できるし、重大鉄道事故データとの関連について言及している点は評価できるが、これらの関連をより深めた議論、交通システムへの影響分析、事故災害対策について、といった点でより詳細な議論があると良い。

  5. 都市交通ネットワークシステムの頑健性、安全性という大きな概念を取り上げている点は評価するが、これらについても両概念を融合するような議論、 政策提言があると良い。論文全体の構成、各章の位置づけを考慮した上で、本論文のシナリオといったものをより明確にしておくと良い。

  6. 本論文の後半にある事故データ解析については、非常に重大な課題であるので、論文として構成上の工夫、内容の追加改善といった点をさらに考慮して欲しい。また前半部分との関連、リンクをより明確にして欲しい。

  7. 本研究の成果はすでに多くの国内外の関連学会においても発表され、学術論文としても1編がすでに刊行され、1編が掲載予定であるというのは、本研究論文が研究成果としてのオリジナリティーを有し、レベルが高いことを意味し、本学の博士論文の水準に十分に達していると評価できる。

 

 上記のコメントに対して、著者は直ちに論文の修正を行い、修正稿を提出し、主査の最終確認を経た上で各審査委員の了解を得た上で博士論文最終版として提出した。審査委員全員は本論文が本学博士論文として妥当であると結論つけた。

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