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THE ROLES OF MANAGEMENT SKILL TRAINING AND LEARNING FROM ABROAD IN THE ETHIOPIAN MANUFACTURING SECTOR(エチオピアの製造業部門における経営技能研修と海外からの学習の役割)

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: Girum Abebe Tefera
学位名: 博士(開発経済学)
授与年月日: 2011年9月7日
論文名: THE ROLES OF MANAGEMENT SKILL TRAINING AND LEARNING FROM ABROAD IN THE ETHIOPIAN MANUFACTURING SECTOR(エチオピアの製造業部門における経営技能研修と海外からの学習の役割)
主査: 園部哲史
論文審査委員: 大山達雄
大塚啓二郎
山野峰
鈴木綾
戸堂康之(東京大学)

I.  論文要旨  
 貧困の削減や雇用の増大のために開発途上国の産業をいかにして発展させるかは、重要な政策課題であり、したがって開発経済学の重要な研究テーマである。これまでの文献の大半は、途上国のインフラの整備状況の劣悪さや、政府による規制の多さ、汚職の横行、契約の履行を強 制する司法制度の劣悪さなど、企業を取り巻く環境を産業発展の決定因として重視してきた。それに対して、ごく最近は企業の経営能力や、その向上のための企業努力といった企業自身にまつわる要因がより重要なのではないかという視点からの実証分析が盛んになりつつある。 
 本研究はまさにそのような新しい視点から、エチオピアで収集した1次資料を駆使して、興味深い実証分析を展開している。本研究の特に注目すべき点は、実験データを用いていることにあ る。ここで実験というのは、国際協力機構(JICA)がパイロット・プロジェクトとして実施した革靴製造業と衣料品製造業の中小零細企業の経営者を対象と して実施した経営研修のことである。この研修に参加した企業と、参加しなかった同業種の企業から、経営の在り方や企業の業績、さらには経営者の経歴などのデータが、研修の前後に質問票を用いた聞き取り調査によって収集された。本研究は、この企業データを用いて、いかなる経営者が研修への参加を希望したのか、参加企業は研修で教わったことを実地に取り入れるのか、研修によって業績がどれだけ向上するのかを分析している。これらの二つの産業での実験に基づく研究が博士論文の第3章と第4章を占めている。第5章では金属加工業の企業データを用いて、外国からに技術導入に関する分析を行っている。 
 これらのオリジナルな研究に加えて、博士論文は第1章で問題提起を行い、第2章では関連する文献を展望し、第6章では分析結果のまとめとその政策含意や将来 の研究に対する含意を論じている。本研究は全体として、最貧国において企業の経営能力と生産性の向上は可能なのか、どうすればそれを加速させられるのかと いった問いを実証的に追及しているが、これは既に述べたように注目を集めている研究テーマである。さらに分析に実験を取り入れているという点でも、本研究 は途上国の産業発展に関する研究の最先端を行くものと言える。また、数少ないが同種の試みが文献に表れ始めているが、それらはみな理論なき実証であって、単に経営を教えたところ効果があったという結果を報告しているにすぎない。それに対して、本研究は実証のみならず、荒削りではあるが理論を提供している。なぜ最貧国の企業が経営に関してかくも無知であったのか、そうした企業がよりよい経営を学ぶことの重要性を認識するようになってきたのはなぜなのか、貧しい国では経営を学ぶ機会を公共的に提供する必要があるのはなぜなのかといった事柄に関して、理論的な説明を加えているのである。この点でも本研究は高く評価できる。 
 なお、この博士論文の第3章から5章までの内容は、ジャーナル用論文3本に書き改めて、国際的に定評の高い査読付きジャーナルへ今年9月末までに投稿する予定である。

 

II.  審査結果報告 
 平成23年7月26日に行われた本論文の発表会が行われ、それに引き続いて審査委員会が開かれた。審査委員は主査 の園部哲史、副査の大山達雄、戸堂康之(東京大学)、大塚啓二郎、山野峰、鈴木綾の6名であるが、大塚、山野両氏は海外出張中のため審査委員会には出席できず、予め博士論文評価表を作成して委員会に提出した。 
 審査委員会は以下の点を全員一致して可決した。 
(1)審査委員の5段階の評価は、いずれも合格点の3点を上回り、したがって平均点も合格点を上回っており、本学の博士論文と認めるに足る内容を有する。 
(2)しかしながら、発表会において審査委員が指摘した問題点はいずれも重要である。博士論文のしかるべき箇所を改訂して、それらの問題を解消するべきである。 
(3)改訂された論文は主査が点検し、必要な改訂が完了したと主査が判断した場合には、追加的に審査委員会を開催することなく、合格の判定を下してよい。 
発表会及び審査委員会において指摘された問題点は以下の通りである(以下で、第3章あるいはTable 5-9などというのは、訂正版における章や表の番号である)。 
(i)第1章に、文献のサーベイや主要な分析結果の説明が含まれていて、第1章が長すぎる。 
(ii) 第3章において、売り上げなどの業績に及ぼす効果を分析する時には、研修前の2時点と研修後の1時点の合計3時点のデータを用いているのに対して、帳簿を こまめにつけるようになったかどうかといった効果を分析する時には、研修前の1時点と研修後の1時点の合計2時点のデータが用いられている。これは、それ しかデータがないので仕方がないことであるが、その点がよく説明されていないので、読者を混乱させる恐れがある。とくに、このような違いによって、表に示された結果の解釈の仕方が多少異なることが明記されていないのは、読者に対して不親切である。 
(iii)Table 5-9が報告している分析は、成長の回帰分析と通称される分析と目的が多少似ている。そこで、成長の回帰分析の特徴である被説明変数の初期時点の値を回帰式の右辺に含めて、その結果も報告するとよい。 
(iv)結論部は、政府の支援による経営研修の普及を産業育成の政策として検討する価値があると論じているが、そうであれば、日本やその他の先進国で産業が発展した背景には、そうした研修への政府の支援があったのかという問いが成り立つ。この問いに対する答えを述べよ。 
(v)(以下は欠席した委員から電子メールで送られたコメントである。) 
(a)技術移転について論じている第5章では、関連する重要な文献がいくつか触れられていないので、改善せよ。 
(b)第5章の(1)式から(3)式の定式化に改善の余地がある。 
なお、このほかに論文発表会での口頭の発表の仕方に難があったことが指摘されたが、これはあくまでも学位申請者が今後注意するべき問題であり、博士論文の改訂を求めるものではない。 
  学位申請者は主査と相談のうえ論文の改訂を行い2011年8月16日に、主査に対して改訂版を提出した。主査が点検した結果は以下のとおりである。(i)に関しては、第1章に含まれていた文献サーベイが切り離されて第2章となり、論文全体の主要な分析結果の紹介は第1章から削除されることで問題が解消した。(ii)に関しては、82ページの第3段落に必要な説明が加えられた。(iii)に関しては、Table 5-9に新しい列が加えられ、初期時点の値を含めた分析結果が報告されている。(iv)に関しては、第6章の250ページの最後の段落から次ページにかけて、説明が加えられている。(v)については指摘された文献の議論が第5章に加えられ、定式化もコメントに沿って改善された。これらの改訂はいずれも満足のゆくものであると判断する。したがって、審査委員会の取り決めにより、本論文の改訂が正しく行われたものと審査委員会は認める。 
 よって、審査委員会は全会一致で、本論文が本学博士論文として妥当であると判定する。

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