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Quantitative Risk Analyses on the Robustness of Water Supply Network System in Tokyo (東京都給配水ネットワークシステムの頑健性に関する定量的リスク分析の研究)

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: Fithriyah
学位名: 博士(社会システム分析)
授与年月日: 2009年1月28日
論文名: Quantitative Risk Analyses on the Robustness of Water Supply Network System in Tokyo (東京都給配水ネットワークシステムの頑健性に関する定量的リスク分析の研究)
主査: 諸星穂積教授
論文審査委員: 大山達雄教授
山野峰教授
森田浩教授(大阪大学)
大来洋一教授

I. 論文内容要旨
 
 大都市の生活は、様々な社会インフラによって支えられている。なかでも、電力やガス、水道といったライフラインネットワークは、都市の大規模化、需要の多様化に対応して、複雑なネットワーク構造によりそのサービスを提供している。一方これらのネットワークは、常に自然災害やテロなどの様々な想定外の事態にさらされており、システムの信頼性・頑健性が強く求められている。本研究では、代表的な社会基盤ネットワー クの一つである給配水システムについて、その頑健性の計測手法を提案し、具体的な事例として東京都の水道網にこの手法を適用することで様々な事例分析を 行った。詳細な分析の結果、当該水道網の頑健性・脆弱性を指摘し、信頼性向上のための改善戦略を提案した。本論文の構成は以下の通りである。
1章 では、分析の対象である東京都水道網の過去10年程度の需要・供給データを概観し、併せて取水設備の分布、取水能力などからその特性の分析を行った。東京都の水道供給は、利根川・荒川に二大水系に大きく依存しており、それらの水源から少数の大規模な浄水施設により、水道供給の大きな割合(80%以上)が行われている点を指摘している。ついで、本論分で提案する手法について先行研究のまとめを行い、本研究の位置づけについて記している。
2章では、最初に分析の対象である給配水システムのネットワーク理論による定式化を説明し、本論文で提案する2つの頑健性計測手法を詳述している。1つは最短経路数え上げ法(SPCP)、もう1つはネットワーク流量最適化法(NFOP)である。前者は、ネットワーク上の供給点(浄水所)と需要点(最終需要地)を全てのペアについて、それらを結ぶ最短経路を計算し、各枝を通過する最短経路の本数によってその重要性を計測する手法である。後者はネットワーク上の枝が無作為に破壊されるという仮定の下での需要充足率を求めるものである。両手法導入の根拠と具体的な計算法が紹介された後、具体的な適用事例である東京都水道網のデータを説明し、分析を行うケース(通常時と、想定されるいくつかの非常時のケース)の説明と想定の根拠を記述している。
3章では、SPCPによる分析の結果が紹介されている。同方法により計測された枝の重要度と実際の供給網におけるその枝の供給容量を比較し、その関連性を指摘している。また、同方法において高い重要度を計測された枝が、実際の供給網においても重要な部分を構成していることを確認している。
4章から6章では、NFOPによる分析の結果が紹介されている。想定する事例を、まず供給側のケースとして、標準ケース(SC、通常の供給体制)、非常事態ケース(EC、地震などの災害により取水施設が破壊された場合に相当)、給水不足ケース(UC、少雨などによる給水不足に相当)の3つを考え、それぞれ水系別にECは2ケース、UCは4ケースとした。水道網の枝(導水管)は、震度7クラスにも耐える強度をもつ部分と、それよりは強度が落ちる部分とに分かれる。これらの状況を考慮した2種類の被災ケースを想定した。供給ケース7、被災ケース2の全ての組合せについて、都全体での需要充足率、3区域(城東、山の手、多摩)別の需要充足率を、シミュレーションにより推計している。最後にネットワーク上の重要接点を探るため、主要な給水所をシミュレーションにおいて仮想的に破壊し、充足率の 変化を計算している。これら充足率の推計値に基づいて、ネットワークの頑健性についての考察が行われている。主な考察結果は、以下のように記されている。
1)標準ケースと比較し、非常事態/供給不足ケースにおける充足率の低下は大きく、浄水所の被災による影響はきわめて大きいと考えられる。給水が少数の大規模浄水場に依存しているためと考えられる。
2) 平均と上下4分位点、最大充足率(枝被害が重要度の低いものに集中した場合)は、枝被害に対して上に凸な曲線を描く傾向がある。その一方で、最小充足率 (枝被害が重要度の高いものに集中した場合)は急速に減少することから、枝(導水管)の重要性に大きな違いがあることが予想される。
3)供給網の中央部分(山の手地区)の接点にあたる給水所で破壊が起こると、充足率に大きな低下が見られることから、中央部分がネットワーク上重要な部分であると予想される。
4) 地域別の分析では、東京湾北部地震、多摩地区での地震などを想定した非常事態ケースでの地域別の推計では、充足率低下に顕著な違いがみられた。また給水不足ケースでも同様の結果が得られた。いずれの場合においても、ネットワークの中央部分で枝破壊が起こったときの充足率低下が大きく、この部分が重要な役割 を果たしていると考えられる。
 7章は全体のまとめと、政策提言である。提言には、取水施設の分散化、導水管の強化を行うべき地点の指摘、緊急時における他県などからの給水の確保の重要性などが含まれている。
  本研究の成果はすでにいくつかの学会(日本OR学会 (2007), ISORA (2008))においても発表されている。また本研究の成果の一部はすでに論文としてISORAの論文集Operational Research and its Applicationsに”Risk Management Analyses on Measuring the Robustness of the Water Supply Network System in Tokyo,” pp.141-151, 2008として発表されており、またもう一編の論文”Analyses of Risk Management on Measuring the Robustness of the Water Supply Network System in Tokyo”を完成し、近いうちにJournal of Water Resources Planning and Management に投稿予定である。
 
II. 審査結果報告
 
  本論文の最終報告に引き続き、平成20年11月25日(火)15時より審査委員会が開催された。審査委員は諸星穂積教授(主査)、大山達雄教授(副査)、山野峰教授(副査)、森田浩教授(大阪大学、副査)、大来洋一教授の5名であったが、論文としての構成、論理の展開といった点での完成度が高い、定量化が難しいとされる分野への挑戦意欲を評価する、社会基盤政策分野への具体的、実際的な貢献を評価する、といった意見に加えて、本論文について以下のような意見が出された。

 

  1. 本論文が提案する新たな手法について、関連文献との記述を通して、その新規性についてより詳しく論じてほしい。

  2. 東京都が行っている被害想定を挙げ、本論分で得られた結果との比較により得られる知見は興味深い。この点について、このような差異が生じる理由について、さらに詳しく論じてほしい。

  3. 上記の結果を受けて、東京都の行っている対策について政策提言として、どのような対策がより重要であるかを論ずることができるのではないか。

  4. 本論分で提案した手法を、東京以外の他の事例に適用することは可能かどうか、モデルの汎用性について論じてほしい。

 

上記のコメントに対して、著者は直ちに論文の修正を行い、修正稿を提出し、主査の最終確認を経た上で各審査委員の了解を得た上で博士論文最終版として提出した。審査委員全員は本論文が本学博士論文として妥当であると結論つけた。

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