学生の方

The Economic Geography of Farm and Nonfarm Sector Development: Evidence from Rural Areas in Bangladesh (農業部門と非農業部門の発展に関する経済地理学的分析:バングラデッシュの農村地帯に関する事例研究)

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: Chowdhury Zia Uddin Hayat
学位名: 博士(開発経済学)
授与年月日: 2009年9月30日
論文名: The Economic Geography of Farm and Nonfarm Sector Development: Evidence from Rural Areas in Bangladesh (農業部門と非農業部門の発展に関する経済地理学的分析:バングラデッシュの農村地帯に関する事例研究)
主査: 大塚啓二郎教授
論文審査委員: Kaliappa P. Kalirajan教授
Wade Pfau 准教授
Jonna Estudillo 准教授
藤田幸一教授(京都大学)

I. 論文内容要旨
 貧困削減は経済開発の究極の目的である。貧困問題がとりわけ深刻なのは農業中心の農村地帯であるが、最近のアジア諸国では、農村の貧困削減が急速に達成されつつある。その直接的な原因は農家家計における非農業所得の増大である。そこで本研究は、バングラデッシュの農村を事例として、農業の発展と関連付けながら、非農業部門の地域的発展の決定因を解明することを目的とするものである。 データは、1987年、2000年、2004年に62の同一の農村から収集された農家家計データである。
 文献のサーベイから、農村における非農業部門の発展については3つの仮説があることが分かった。第一の仮説は、都市との結びつきを重視するものであり、都市での就業、都市からの技術的知識や原材料の入手可能性、市場への近接性の高さから、非農業部門の発展は都市に近い農村でより活発に起こるというものである。第二の仮説は、農業の比較劣位を重視するものであり、質的にも量的にも土地に恵まれないような農村において、非農業部門が発展するというものである。これは農業が不振なだけに、労働等の資源が農業から非農業部門にプッシュされるという立場である。第三の仮説は、農業発展に起因する生産連関や消費連関の効果を重視するものである。すなわち、農業で高収量品種の採用のような技術進歩が起こると、肥料のような購入要素への需要が増加しそれが肥料関連の生産やサービス部門を刺激するとともに、生産量の増大は精米業の発展を刺激する。さらに技術進歩が所得の増大につながれば、それが非農産物やサービスの需要を高め、それが非農業の発展を刺激する。そうした非農業部門の発展は、言わば労働等の資源を農業から非農業へプルする。ここで注意しなければならないことは、農業の技術進歩は農業の比較優位を高めるであろうから、第二と第三の仮説は基本的に矛盾することである。どちらの仮説がより現実説明力があるかを検証することは、本研究の大きな目的の一つであ る。
 本研究の最大の貢献は、土地が稀少で、灌漑がなく、洪水に襲われがちな地域、つまり農業の比較優位がないような地域で非農業部門が発展する傾向が強いことを、統計的に充分かつ頑健に示したことである。バングラデッシュでは灌漑がある地域で高収量品種が採用されたという事実があり、これは緑の革命が非農業部門の発展には結び付かなかったことを意味する。要するに仮説2は支持され、仮説3は棄却されると結論される。また労働力の教育水準も非農業部門の発展と密接に関連しているが、教育は農業部門よりも非農業部門において一般的により重要であることがわかっており、これは教育水準の向上が非農業部 門の比較優位を高めていると解釈できる。
 他方、都市までの距離で測った都市の影響は極めて有意であり、第一の仮説は支持された。しかしながら、距離の重要性は1987年において顕著に高かったものの、2000年と2004年には係数の有意性も大きさも減少している。これは道路の整備等のインフラの改善が、距離の重要性を減少させたと解釈可能である。また1980年代後半以降に急速に進んだ電化が、有意に非農業部門の発展を促進していることも明らかになった。
 非農業の構成を見てみると、商業や流通業という高収益型の部門は都市に近い地域で発展している一方で、建設業や輸送業のような低収益型の部門は遠隔地で発展する傾向がある。特に後者は、土地なし労働者や零細農家が従事する傾向が強く、貧困削減では重要な役割を果たしている部門である。
 政策的インプリケーションとしては以下の点があげられる。第一は、農業部門の発展が困難な地域で貧困削減を図ろうとすれば、それは非農業部門の発展によって実現されるべきである。そのためには、道路の改善、農村電化、教育の充実が重要になる。第二は、社会的平等を実現する手段としての教育の充実である。これまのでバングラデッシュの農村では、土地所有の多寡が農家所得の最も重要な決定因であったが、非農業部門の発展を契機に、教育の格差に基づく所得の格差が顕著に見られるようになりつつある。所得格差を拡大することなく経済発展を達成しようとするのであれば、教育格差の解消を目指すことがき わめ重要になるであろう。 
 
II. 審査結果報告
本論文の最終報告に引き続き、平成21年8月13日(木)15時半ころより審査委員会が開催された。審査委員は大塚啓二郎教授(主査)、Kaliappa Kalirajan教授(副査)、Jonna P. Estudillo准教授(副査)、藤田幸一教授(京都大学)、Wade Pfau准教授(副査)の5名であったが、 Kalirajan教授は海外出張中のため書面審査の結果を提出することで審査に加わった。
非農業部門の農村における発展という問題は、貧困削減を実現するための非常に重要な問題ではあるが、適切なデータの入手が困難なためにこれまで研究されてこなかった。本研究がこの課題に積極的に挑戦したことは高く評価されるべきである。事実、農家家計のデータを用いて、非農業部門の地理的発展を厳密に研究したのは、評者の知る限り、本研究が初めてである。また仮説の定式化、推定手法、論文の構成、統計的ファインディングについても高い評価が与えられた。その一方で、ややあいまいな個所が散見されるのでさらなる修正を加えるべきであるという意見が出た。
具体的には以下の点が指摘された。

 

  1. 生産連関や消費連関に関する文献をより批判的に評価すべきである。

  2. 家計の構成メンバーの定義を明確化すべきである。

  3. 農家の平均耕作規模のデータを明示的に示すべきである。

  4. 都市への移動と農村部での非農業部門の発展の関係について議論すべきである。

  5. 3年間のサーベイの中で、住居を変更したり新たに独立した家計のサンプリングについて、より明快な説明が必要である。

  6. 非農業部門の構成は多岐にわたっており、中身の議論をさらに注意深く行うべきである。

 

上記のコメントに対して、著者は直ちに論文の修正を行い、修正稿を提出し、主査の最終確認を経た上で博士論文最終版として提出した。各審査委員の了解は得られており、これをもって審査委員全員が本論文を本学博士論文として妥当であると結論つけたことになる。 

〒106-8677 東京都港区六本木7-22-1

TEL : 03-6439-6000     FAX : 03-6439-6010

PAGE TOP

Print Out

~