学生の方

AN ECONOMIC INQUIRY INTO THE INTERNATIONAL TRANSFER OF MANAGERIAL SKILLS: THEORY AND EVIDENCE FROM THE ETHIOPIAN MANUFACTURING SECTOR

博士論文、要旨、審査要結果

学位取得者氏名: Berihu Assefa Gebrehiwot
学位名: 博士(開発経済学)
授与年月日: 2013年3月19日
論文名: AN ECONOMIC INQUIRY INTO THE INTERNATIONAL TRANSFER OF MANAGERIAL SKILLS: THEORY AND EVIDENCE FROM THE ETHIOPIAN MANUFACTURING SECTOR
主査: 大野健一
論文審査委員: 大山達雄、園部哲史、Moges Abu Girma(筑波大学)

Ⅰ.論文要旨

 

一般に、エチオピアを含むアフリカの製造業は長期にわたって低迷しており、競争力や生産性、技能などの向上が見られない。最近の成長加速においてもこの傾向は変わっていない。この原因としては、資金アクセス、投資環境、マクロ環境、人材、法的枠組の欠如などさまざまな要因が挙げられているが、本稿においては「経営」の質の観点からこの製造業の沈滞を検討する。ここでいう経営には、単に経営戦略のみならず、職場の規律・秩序、長期契約・労使関係の重視、従業員の訓練や労働へのインセンティブ付与といったマインドセットや企業文化に関わるものを含む。

 

エチオピア企業の競争力欠如を「経営」問題としてとらえると、国内に適切な模範がない状況では、その質向上のためには外国モデルの選択的な導入が有効である。外国モデルとして本論で検討するのは、現在エチオピアに実際に導入され全国的に展開されつつある日本発の「カイゼン」である。ベンチマーキングやBPRなどの欧米型ツールに比べると、5Sや品質管理サークルなどの現場ツールから構成されるカイゼンは、単なる技術導入や工程の効率化のみならず、マインドセットや企業文化にまで踏み込んで企業を変えようとする。著者によれば、経営モデルとしてのカイゼンがもつ組織的特徴は、①非機会主義的なアプローチ(従業員の搾取ではなく労使共栄)、②ボトムアップの参加型意思決定、③労使接触の制度化、④訓練と配置転換の重視、⑤自立性(従業員による試行錯誤の許容)である。こうした企業環境の導入によって、単に職場を効率的に整理整頓するのみならず、従業員にやる気を起こさせ生産性や品質の改善を実現することができるはずである。この意味で、カイゼンは欧米型モデルよりも、上記の問いに対する1つの有効な答えとなりうる可能性が高い。

 

カイゼンをアフリカに移転するのは文化の壁があるので困難であるという主張もあるが、著者はこれに対して、そもそもカイゼンは米国の経営モデルが日本で修正されたものであり、また世界中の多くの国で実施され成果をあげていること、カイゼンは文化や歴史に依存するというよりも製造業の基本的問題への合理的対応の1タイプであるとみなせるといった観点から、否定的な立場をとる。ただし、国境を越えたカイゼンの移転が成功するには、経営トップのコミットメント、政策的支援、インセンティブや訓練プログラムの整備、臨界点をこえる学習の蓄積、制度化などの条件が満たされなければならない。

 

以上の観点から、エチオピアでカイゼンを実施した企業40社(JICAによる実施30社、自主的な導入10社)とそうでない企業40社についてのデータ分析が行われた。これらの企業は概して大中企業に属し、業種は多様である。なおエチオピアのカイゼン導入の歴史が2009年からとまだ短いため、十分なサンプル数や期間をとることができていないのはこの研究の将来の課題である。またカイゼン実施企業はランダムに選ばれたのではなく、社長のやる気を含む慎重な審査の上選ばれたのであるから、サンプルはランダム性をもたず自己選択の問題をはらむ。著者は、個々の企業の「やる気」は時間を通じて変わらないという仮定の下で差分をとることによってこの問題を回避しようとしている。

 

データ分析の結果、カイゼン企業と非カイゼン企業を比較すると、まず売り上げ・付加価値・コスト減・利益などのパフォーマンスについては前者に顕著な改善が確認された。ただし雇用については、短期間の制限もあり、増減のインパクトは見られない。次に、従業員の質に関しては、改善企業では、労働者1人当たりにかける教育訓練および工科大学・短大卒業生のシェアの有意な上昇が見られた。さらに、経営プラクティスについては、チームワークの向上、労使間の相互信頼(制度化された労使接触、長期雇用契約、労働者技能への投資)が増加した。

 

これらは長期志向・従業員教育・参加型経営などの導入という企業文化の変化の「兆し」を発見したものといえよう。これは、企業パフォーマンスが上昇したかどうかだけをみる通常の研究よりも一歩踏み込んだ結果であり、カイゼンはアフリカにおいても企業文化自体の変容をもたらす可能性をデータで証明した点がこの研究のオリジナリティーといえる。ただし前述のとおり、データが少なくカイゼン実施後間もないのでフォローアップ調査が必要であることも確かである。

 

Ⅱ.審査報告

 

審査委員4名による考察は以下の通り。本研究は途上国における経営革新というテーマにおいて、単なる事業パフォーマンス向上を超えて、企業文化の変革の有無という新たな問いを投げかけ、いくつかのデータ的制限はあるものの、エチオピアの企業についてきわめて興味ある初期結果を得たものとして高く評価できる。また、初稿からの加筆・修正が顕著であり、構成や文章においても著者の努力が見られる。ただし完璧とまではいえず、論理構成上および表現上のさらなる改善努力を続けることは望ましい。

 

Ⅲ.寄せられたコメント

 

審査委員からのコメントを作業分野ごとにまとめると以下の通り。

 

①データ・サンプルの選択について

以下の諸点につき詳しい叙述を加え、ランダム・サンプルでないことを正直に認めたうえで、その限界や解釈の可能性を明確にすること

 -JICAによる訓練対象企業の選択プロセスの説明

 -自主的にカイゼンを行った企業のプロフィールおよび実施動機

 -カイゼンを行わなかった企業についてもできるかぎりその状況を説明

 -自己選択の問題を明確に論じ、それにどのように対処したかを明記

 

②データの明瞭な表示

サンプルの平均・標準偏差をはじめとする描写的統計の表示がわかりにくいので、一部のグラフ化表現も含めてより明瞭なものとする

 

③生産関数について

 -生産関数の中で経営をどのように表現するかについての議論の整理

 -生産関数のXiは外生変数ではなく生産要素のはずである(表現の不自然を改める)

 

④エチオピア製造業について

研究対象であるエチオピア製造業について、パフォーマンス、歴史、政策などにかんし詳しく説明し、理論・実証の分析部分との関連を明確にする

 

⑤その他

 -冒頭で何を研究課題とするかについてより明確に論ずべし(④とも関連)

 -「本研究の制約」の一節を結論章ではなく実証章の末尾に移す

 -スライドのうち、本文にないものを必要に応じて適宜論文に挿入する

 -アブ・ギルマ教授の詳細な修正提案を検討し、必要なものをとりいれる

 

Ⅳ.総論

 

以上の判断に基づき、IIIであげられたコメントの大部分を取り入れておよそ1ヶ月内にさらなる修正を行うことを条件に、本学の博士課程論文として十分な水準に達していると認め、学位授与を行うことを決定した。論文は2013年2月8日に主指導教官に再提出され、上記コメントに沿って加筆修正が行われたことを確認した。

 

以 上

〒106-8677 東京都港区六本木7-22-1

TEL : 03-6439-6000     FAX : 03-6439-6010

PAGE TOP

Print Out

~