1. ホーム
  2. リサーチ・プロジェクト

リサーチ・プロジェクト

2016/5/25 ~ 2017/3/31

規制強化を行う環境保全型土地利用規制の効果に関する定量的分析

研究代表者

 (1)現状

 日本の都市の土地利用規制については、都市計画法に基づく地域地区の指定や建築基準法の集団規定による規制を根幹の制度としつつ、住環境への関心の高まりや建築様式の多様化を背景に、地域の様々な住民ニーズを的確に反映するためのシステムとして、計画策定過程における住民参加の充実や、住民発意による手続きが整備された建築協定や地区計画などの規制強化型環境保全ルールが設けられている。さらに、各地方自治体で法制度を補完する独自の条例やルールを整備することも広く行われつつある。

 建築協定は全国で2,803地区(H20.3.31時点、国土交通省調べ)、地区計画は6,683地区153,002.7ha(H26年度都市計画概況調査、同調べ)の実績があるものの、現場の実務においてどの規制手法をどのように用いるかについては、合意形成の経緯や当該地区を担当する行政やコンサルタントの直感や経験に頼った活用が多く、必ずしも制度が普及していないのに加え、策定地区においても環境保全という制度の趣旨に沿ってうまく活用されていないとの批判がみられる。

 

(2) 本研究に関連する国内・国外の研究動向及び位置づけ

 これまで、規制強化型環境保全ルールについては、地価への環境価値の帰属を計測する手法により地価関数を推定して規制による地価上昇効果を計測することにより、規制による外部性のコントロール効果を予測し、立証しようとする研究として、肥田野・亀田(1997)(1)やGao and Asami(2001)(2)、谷下雅義ほか(2009)(3)などがある。また、特に住民の的確なニーズを反映するための合意形成の方法論について、多くの事例研究もなされてきている。

 しかしながら、それぞれの地区において、どのような強度、内容で規制強化型環境保全ルールをかけるのが、地区内・地区外も含めた社会的に最適な環境を実現することになるのかについての定量的研究は、ほとんどなされてきていない

 本研究においては、規制強化型環境保全ルールの制度と運用両面の効果を実証分析することにより、規制強化型環境保全ルールの活用方法について政策実務に適用可能な基準化を図ることを目的とする。

 

(3) 応募者のこれまでの研究成果を踏まえ着想に至った経緯

 規制強化型環境保全ルールが必ずしも適切に運用されていない要因として次が想定できる。第一に、ルール適用地区に隣接する地区において、自らは規制の制限を受けずに規制をかける地区の住環境の改善効果だけを享受できるフリーライダーが存在することがあげられる。そのため、住民の発意で区域の設定をしようにも、区域設定の段階から最適な規制区域の規模を設定することが困難となっている

 第二に、規制強化型環境保全ルール効果について、規制後の長年にわたる運用、例えば、実効性(協定などの任意の契約か行政チェックが行われるかなど)や柔軟性(変

更が可能か、またはその手続きの容易性など)があったか否かという効果については、ほとんど測定されてきていない。制度が実際に地区にとって最適な規制や強度として運用されてきたかどうかという重要な効果検証の蓄積が存在していないのである。

 

 第三に、効果的な規制をしようとするほど、その内容はより詳細で、より厳しいものとなる傾向があるが、一方で反対者の反発も強くなる。そのため、関係者が多い場合や高い合意率を求める場合は、結果として反対者を出さずに全員の意見の折り合いがつく規制や強度となり、社会的にみて最適な規制や強度を選択できていないという可能性もある。

 

 したがって、規制強化型環境保全ルールは、規制やメニューだけでなく、実際に規制がもたらす効果の実効性や事後的変化に耐えられる柔軟性、合意形成のコストなどの社会実態も踏まえて制度と運用を考察することが重要となる。このため、現実の規制の効果に関する十分な情報を学術的に整理分析し、これを広く関係者で共有することは、合意形成の容易化をもたらし、最適な規制を実務で選択するために重要な要素となる。

(1) 規制強化型環境保全ルールの定量的な効果の実証

 本研究においては、規制強化型環境保全ルールが策定された地区について、規制地区の隣接する地区に規制の効果が及ぶことによる①フリーライダーの発生とその程度、②規制の実効性や③運用における事後的な柔軟性、④ルール導入に関する合意形成コストに着目した上で、⑤具体的な制限内容にも踏み込んだ実証分析を行い、規制強化型環境保全ルールの効果を多面的定量的に明らかにする。

(2) 規制強化型環境保全ルールの活用方法の基準化

 (1)を踏まえ、規制強化型環境保全ルールをかける際に、地区の特性ごとに、どのような規制や強度とするのが、地区内・地区外も含めた社会的に最適な環境を実現することになるのか(例えば、周辺状況による区域の取り方、選択すべき制度や運用方法等)を分析整理することにより、規制強化型環境保全ルールの活用方法について実務に適用可能な基準化を図る。

 本研究で目指す(1)規制強化型環境保全ルールの定量的な効果実証、(2)ルールの基準化は、規制による外部性のコントロール効果の立証に終始したこれまでの先行研究ではほとんどなされてきておらず、厳格な手法に基づいて現行制度の最適運用のための効果計測を行うこと自体、先駆的価値を有し、今後の適切な制度運用、政策立案の上での基礎的研究として重要な意味を持つ

 

<参考文献>(1)肥田野登、亀田未央(1997)「ヘドニック・アプローチによる住宅地における緑と建築物の外部性評価」『日本都市計画学会学術研究論文集』32,457-462、(2)Xiaolu Gao and Yasushi Asami(2001) ”The External Effects of Local Attributes on Living Environment in Detached Residenial Blocks in Tokyo” Urban Studies, Vol.38, No.3, 487-505、(3)谷下雅義、長谷川貴陽史、清水千弘(2009)「景観規制が戸建住宅価格に及ぼす影響」『計画行政』32(2),71-79