今後の大学運営について

 2017年4月3日

於:政策研究大学院大学 研究教育評議会

 

 

 GRIPSは、「政策及び政策の革新にかかわる研究と教育を通して、我が国及び世界の民主的統治の発展と高度化に貢献することを目的」として設立された大学院大学であって、大学運営のすべてはこのミッションを実現するためにあります。
つまり、高度な政策研究を実施していくとともに、このような研究成果に基づき、国内外のトップリーダー・幹部行政官を養成する、世界最高水準の公共政策大学院教育を実施するということです。具体的には第3期中期目標を達成するために中期計画を着実に実施することです。

 

 白石前学長のもとで、アジアのプレミアポリシースクールとしての地位を確立し、さらにその地位の強化をはかること、公共政策大学院の国際ネットワーク拠点としての発展・充実をはかっていくこと、という将来ビジョンが示され、そのために、学位プログラムの再編・強化の取り組みを行うこと、多様な学生が互いに学ぶ機会を拡充すること、政府の重要政策への積極的貢献をすること、などが実施に移されつつあります。これらの方針を進めていきたいと思います。そのような大きな方向性のなかで、私として、気がついた点についていくつか述べたいと思います。

 

 第一は、先月のInternational Advisory Committeeで指摘されたことでもありますが、日本人学生と留学生の相互交流・相互啓発が行われることを重視したいと思います。日本人学生にとって、66%の学生が留学生であるというGRIPSの環境を利用しないのは、全くもったいない話です。また、留学生にとって、せっかく日本に来て大学院教育を受けているのに、日本人学生とともに切磋琢磨する機会が十分得られないということになれば、日本に来たことの意味が大きく損なわれるでしょう。すでに企画されている新たな取り組みに加えて、さらに検討を行いたいと思います。具体的には、学位プログラムの再編・強化の検討を行うプロセスの中に、この観点を特に取り入れていきたいと思います。

 

 第二に、政策研究のさらなる推進です。いうまでもなく、大学における研究は、研究者自身の自由な研究です。先生方が、重要だと思われる研究を自由に進めることを大学として最大限尊重し、そのための環境を整えることが大事だと思っています。ただ、研究テーマとしては、本学のミッションに照らして相応しいものを選んでいただきたい。日本そしてアジアに位置する大学として、日本やアジアの経験を、できうるかぎり客観的・体系的に可視化し、理論化する、あるいは実証する研究は、これまでにもGRIPSでなされてきていると思いますが、今後もさらにそのような研究を次から次へと生み出していただきたいと思います。そのような研究成果をこれまで以上に教育に反映させていければ、まさに、アジアのプレミアポリシースクールとしての地位をさらに強化していくことができると思います。

 

 さらに具体的に踏み込んでいうと、2015年に国連総会で採択された持続可能な開発目標(sustainable development goals: SDGs)や、気候変動に関するパリ協定にもりこまれたさまざまな目標の実現に資する研究も、十分視野にいれていただけると有難いと思います。17の目標と169のターゲットからなるSDGsは、大変包括的な目標でしかも世界すべての国を対象とする目標です。日本政府も、昨年5月に、「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を発足させ、12月には、「持続可能な開発目標実施指針」を策定しています。
 私はJICAの理事長として、SDGsの策定プロセスにいささか関与してきましたが、SDGsには問題がないわけではないと思ってきました。SDGsは、国際社会におけるすべての機関や国々やステークホールダーの要望をできる限り取り入れ,しかもコンセンサスで採択しようとしたため、野心的かつ包括的ではあるものの、十分目標間の連関や構造がはっきりしないものになってしまったからです。当初、指で数えられるくらいの数の目標にしようといっていたのですが、17もの目標、169のターゲットになってしまいました。世界、そして日本自身が、この目標を達成しようとすれば、より具体的な政策指針が必要になります。GRIPSの研究者の研究は、必ずやSDGsのどれかに関連しています。先生方の研究によって、目標間の構造が明確化され、実現可能で有効な政策が生み出されるようになっていただけるとすばらしいと思っています。

 

 大学運営について、第三に述べたいことは、資金調達です。運営費交付金の増額がほとんど望めないなか、自己収入を拡大していかなければ、自由な研究も促進できませんし、優秀な研究者や学生を獲得することにも困難をきたします。外部資金による研究費獲得に加え、昨年造っていただいたGRIPS基金を活用していかなければならないと思っています。短期研修の実施などを通して、これまで以上に実業界やメディアさらには政界との関係も深め、GRIPSの将来を共有してもらうステークホールダーを増やしていきたいと思います。

 

 大学運営に関する第四点は、職場としてのGRIPSを、さらに健全で働きやすい環境に変えていくことです。長時間勤務を減少させ、ワークライフバランスを重視し、ハラスメントなどのない職場になるように、教職員の創意工夫、皆で知恵を出し合って努力していきたいと思います。また、職員のみなさんにとって、大学に勤めるということが効果的な生涯学習の機会でもある、と思えるような職場にできればよいと思います。

 

 そして第五点目として、研究・教育・事務すべての取り組みを、より効率的効果的にするためのインフラとしてのICT環境をさらに改善させたいと思います。情報セキュリティを確保していくことは当然ですが、日々発展しているICT技術を積極的にとりこみ、研究や教育に活かすと同時に、事務の効率化柔軟化にも使っていくべきだと思います。是非多くの教職員や学生の意見を聞いて、よりよい情報システムの構築のための検討を始めたいと思います。

 

 最後に、GRIPSの知名度の向上も課題だと思っています。東南アジア諸国での知名度は相当高くなってきていると思いますし、国内でもOBが多くいる官庁や地方自治体では名前が知られてきていると思います。しかしながら、国内の社会一般、実業界、マスコミなどでの知名度はまだまだだとの印象があります。諸外国や国際機関から依頼される研修事業を継続発展させるとともに、民間企業などの要望に応える研修を実施することで、GRIPSの存在感を高めていかなければいけないと思います。また、海外では、東南アジアを越えた世界、とくにいわゆる先進国における知名度を高める必要があると思っています。教員の皆様方には、新聞や一般雑誌への投稿、テレビ・ラジオの出演、講演など、研究や教育を阻害しない範囲で、できるだけ積極的に各方面に登場していただきたいと思います。また、これまで通り、海外における研究、海外における学会出席や講演なども是非積極的に行っていただきたいと思います。

 

 昨年3月に学長選考委員会から学長候補に指名され、客員教授にさせていただき、GRIPSについて勉強させていただいてきましたが、それでも、研究教育の内容についても組織についても、まだまだ十分理解できていないこともあります。いろいろご意見やご注意をいただきながら大学運営を進めて参りたいと思いますので、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。

 

 

政策研究大学院大学長

田中 明彦

 

 

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