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2015.12.7

第118回GRIPSフォーラムにて、地熱情報研究所代表で九州大学名誉教授の江原幸雄氏による講演が行われました。

geothermaljapanese

 

取材・文責:企画室広報担当

「日本における地熱エネルギー利用の現状と将来」

 

先月末からフランスのパリで始まった、国連気候変動枠組み条約第21回締結国会議。地球を救う最後のチャンスに、世界各国は多国間協力による対応を迫られている。各国政府にとっての取組課題は、再生可能エネルギーの活用と温室効果ガスの削減だ。更に、再生可能エネルギー技術には幅広い選択肢があり、それぞれに発電、送電、供給方法が複雑に組み合わさっている。政策担当者は最適な技術の選定に苦心している。

 

11月30日、第118回GRIPSフォーラムが本学にて開催された。江原幸雄氏(地熱情報研究所代表、九州大学名誉教授)をスピーカーに迎え、「日本における地熱エネルギー利用の現状と将来」をテーマに講演が行われた。地熱エネルギーが再生可能エネルギーであることは当然知られているが、その非常に高い設備利用率は特筆すべき点である。風力発電や太陽光発電に比べ、外部環境に左右されにくく安定的に電力を発電できる。

 

江原氏は、地熱エネルギーを「地球からの贈りもの」であると表現し、日本が世界第三位の地熱資源大国であることを考慮すれば、地熱発電こそ将来のエネルギーミックスに大きく貢献すると主張した。さらに、地熱発電の高い安全性は、数年前史上類を見ないほど甚大な原子力事故を経験した日本にとって、注目すべき側面である。しかし江原氏によれば、地熱発電に対する日本の取組みは、世界のそれと比べて停滞傾向にあったという。事実、日本の地熱発電総認可出力量は1996年以降ほぼ横ばいとなっている。

 

江原氏は日本の地熱エネルギー利用を増加させる上で、3つの解決すべき課題を指摘する。

 

第一に、発電コスト。かつては地熱発電の発電コストは化石燃料と核燃料によるそれの2~3倍のコストがかかるといわれていた。しかし、2012年に日本の固定価格買取制度(FIT)[*脚注] 導入以降、地熱に対する投資見通しが向上。地熱の十分な資源量と高い発電技術、開発調査に対する投資拡大によって、長期的な発電コスト減が期待されている。

 

第二に、国立公園の問題である。日本では利用可能な地熱資源の多くが国立公園内に存在しており、特に特別地域内は開発行為に関する規制の下にあった。江原氏によると、日本の有望と評価された地熱資源量の80%以上が、特別地域内に存在しているという。氏は、国立公園内における開発行為規制緩和の必要性と同時に、開発には景観や生物多様性に配慮した空間利用のためのガイドライン遵守が伴わなければならないとし、「開発事業者も新しい環境技術を取り入れ、国立公園を保護しながら、地熱発電が行えることを広く国民に発信していく努力が必要だ。」と主張する。

 

最後は、温泉等周辺環境への影響配慮問題である。日本では、地熱発電による温泉・間欠泉への影響が懸念されてきた。江原氏はそれに対し、「影響を避けるための、科学的・技術的検討と対策が重要。中でも、持続可能な生産が重要。」とし、温泉事業者と発電事業者間の理解と調整が必要であるとした。海外の事例では温泉や間欠泉の活動低下や水蒸気爆発も発生している例があるが、これは不用熱水を地下に還元しなかったことが主要な要因である。日本では現存する17の地熱発電施設において、不用な熱水はすべて地下に還元し、温泉モニタリングも慎重に行われており、熱源枯渇等による源泉等への悪影響を報告された例は無いと述べた。

 

地熱技術に対する一般の理解は、日本において未だ途上段階だ。しかし江原氏によれば、リスクマネジメントの観点から精力的なエネルギー対話が繰り広げられている昨今、地熱エネルギーは地球温暖化およびエネルギー需要に大きく貢献するという。日本政府は2030年時点で目標とする電源構成において、再生可能エネルギーの割合を22-24%(うち、地熱は1.0~1.1%となっている。さらに、2050年以降に向けて10%程度を見込むことも可能であると考えている)とした。達成目標引き上げに対する議論がある中、日本のR&Dやイノベーションを躍進させる地熱発電の可能性を見直す必要があるだろう。

 

*固定価格買取制度(FIT):

再生可能エネルギーの普及を図るため、電力会社に再エネで発電された電気を一定期間、固定価格で買い取ることを義務づけた制度。略称をFIT(FEED IN TARIFF)といい、日本では2012年7月に始まった。調達にかかる費用は、すべての電気使用者から賦課金として電気料金とともに集められる。

 

 

 

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